健康経営の取り組み方。メリットや認定要件を分かりやすく解説
NPO法人健康経営研究会が定義する「健康経営®(※)」とは、「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与する」との観点から、従業員の健康に積極的に投資する経営戦略のことです。
近年、SDGsやESG投資など、株主資本主義から、公益資本主義への転換の流れを受けて、人的資本としての従業員への投資を通じて、企業の持続性を高めていく経営が認識されるようになってきました。2023年度からはプライム市場において、有価証券報告書への人的資本投資に関する記載が義務化されることになるなどの社会状況も変化しています。これを受けて、特に、上場企業においては、ステークホルダーとしての従業員への健康投資を積極的に行い、健康経営資本を構築することが、当たり前の経営として求められるようになってきました。
経済産業省では、2013年から健康経営に取り組む企業を、健康経営銘柄、健康経営優良法人として認定し顕彰する制度を推進しています。顕彰制度の認定を受けることで、企業の持続的な成長と発展に貢献することが期待されています。
こうした状況を受けて、企業の経営企画部門や人事部門では、「健康経営に取り組むとどのようなメリットがあるのか」「認定を受けるために何から取り組めばよいのか」ということについて関心を持つ方もいるのではないでしょうか。
この記事では、健康経営が求められる背景や取り組むメリット、認定を受けるための取り組みについて解説します。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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目次[非表示]
- 1.健康経営が求められる背景
- 2.企業が健康経営に取り組むメリット
- 2.1.①生産性の向上
- 2.2.②企業イメージの向上
- 2.3.③健康管理によるコスト削減
- 2.4.④リスク管理の徹底
- 2.5.⑤エンゲージメントの向上
- 3.健康経営優良法人認定制度について
- 4.健康経営優良法人認定制度の認定を目指すための取り組み
- 4.1.①経営理念・方針の策定
- 4.2.②組織体制の構築
- 4.3.③制度・施策の実行
- 4.4.④評価・改善の実施
- 4.5.⑤法令遵守・リスクマネジメント
- 5.まとめ
健康経営が求められる背景
健康経営の取り組みが重要視されている背景には、日本の少子化による、働く人の高年齢化と労働力人口の低下、そして人生100年時代の到来による働く人の価値観や、今後進む雇用の流動化など、予見可能な社会情勢の変化のなかで、企業の持続可能な経営基盤が求められていることが挙げられます。
日本の総人口は少子化の影響によって減少傾向にあり、2021年10月1日時点の人口動態統計によると、高齢化率(高齢者の人口比率)は29.8%となっています。また、2065年の未来の日本の推定人口は、今よりも30%以上減少し、8,800万人になることが予見されています。
▼高齢化の推移と将来推計
画像引用元:内閣府『令和4年版高齢社会白書』
高齢化は今後も進み、2036年には33.3%にまで高齢化率が上昇して、3人に1人が65歳以上になると推計されています。その結果として、年金の受給年齢の引き上げなどの社会保障制度の課題と相まって、政府からの要請により、再雇用や定年制度を見直す企業が増えてきています。
このような状況においては、高年齢従業員の健康問題が直接的な企業の経営リスクにもつながります。このことから、従業員への健康投資の促進を通じて企業の持続性を担保するとともに、健康寿命の延伸を通じて、生涯現役社会を実現することで、社会保障制度そのものの維持を図ることが国策としても重要なテーマです。
このように、従業員は企業の持続的な成長と発展のために欠かせない源泉であることから、「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与する」“健康経営”への注目が高まってきました。
また、健康経営の取り組みは、2023年度から上場企業に義務付けられた有価証券報告書への人的資本投資の外部開示と相まって、従業員の健康投資による便益(ベネフィット)を社外に積極的に示すことも求められるようになってきています。
出典:経済産業省『健康経営の推進について』『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~』/内閣府『令和4年版高齢社会白書』
企業が健康経営に取り組むメリット
従業員の健康保持・増進に取り組むことは、企業にさまざまなメリットをもたらすと考えられています。
▼企業が健康経営に取り組むメリット
- 生産性の向上
- 企業イメージの向上
- 健康管理によるコスト削減
- リスク管理の徹底
- エンゲージメントの向上
①生産性の向上
健康な従業員は、仕事に集中し、高い生産性を発揮する傾向があります。健康経営は、従業員の体調やメンタルヘルスの管理に焦点を当てるため、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることができます。
②企業イメージの向上
健康経営を重視する企業は、従業員の健康を増進させていく働き方を大切にしていることを示します。このような企業のイメージ向上は、労働市場での競争力や従業員の確保・維持につながることがあります。
③健康管理によるコスト削減
健康経営の取り組みにより、従業員の予防や早期発見、健康の保持・増進の実現が可能となります。予防や早期ケアへの投資は、将来的な医療費の適正化や休業に関するコストの削減につながります。
④リスク管理の徹底
健康経営は、企業が従業員の健康と安全を最優先に考える姿勢を示すことができます。従業員の安全意識や健康意識を高めるために、事故や疾病のリスクを最小化する対策を講じることが重要です。
⑤エンゲージメントの向上
健康経営に投資することは、従業員のエンゲージメントを向上させるための一環となります。働きがいのある仕事や、健康で健全な職場環境の提供は、従業員の満足度や忠誠心を高めます。
上記の他にも、具体的なメリットとして、従業員の健康投資1ドルに対して3ドルの投資リターンがあったとの結果が、米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社のレポートにおいて、報告されています。また、2022年に健康長寿産業連合会と滋賀医科大学が発表した調査研究では、経済産業省が継続的に蓄積してきた企業の健康経営度調査データを解析した結果として、健康経営に積極的に取り組む企業の営業利益が、そうではない企業に対して高い相関があったことも報告されています。
▼健康経営と企業の業績の関連性
画像引用元:経済産業省 第8回 健康投資ワーキンググループ 参考資料2 滋賀医科大学矢野教授提出資料『健康経営と企業の業績の関連性』
健康経営に取り組むメリットの詳細と実現に有効な手段についてはこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
健康経営優良法人認定制度について
経済産業省では、優良な健康経営に取り組む企業を見える化することを通じて、社会的評価を受けられる環境を整備するために、大企業のみならず、中小企業に対する顕彰制度を推進しています。
▼健康経営優良法人認定制度
画像引用元:経済産業省『健康経営の推進について』
認定を受けることで、従業員やサプライチェーンなどのステークホルダーからの評価が高まり、金融機関や自治体などから、さまざまなインセンティブを受けられます。
申請・認定企業は年々増加しており、7回目となる2023年度では、大規模法人部門が2,676法人、中小規模法人部門が14,012法人の認定を受けています。
出典:経済産業省『健康経営優良法人認定制度』『健康経営の推進について』
健康経営優良法人認定制度の認定を目指すための取り組み
顕彰制度の認定を受けるには、認定要件として定められた取り組みを実施することが必要です。大規模法人部門と中小規模法人部門では認定要件の必須項目が異なりますが、ここでは、経済産業省が示す5つの健康経営のフレームワークについて解説します。
①経営理念・方針の策定
健康経営を実践するにあたっては、経営層が中心となって経営戦略として健康投資を推進することで、現場の管理者が基点となって従業員に対して目的・意識を共有して、企業文化を醸成していくことが必須です。
そのためには、最初に健康戦略を策定して、「なぜ、わが社が健康経営に取り組むのか」ということについて、理念や方針を通じて明文化したうえで社内外への発信を行うことが最重要となります。
②組織体制の構築
健康経営の理念を浸透させて、取り組みを定着化させるためには、社内の関係部門はもちろんのこと、労働組合や健康保険組合などとの連携による組織体制を構築することが必要となります。経営者と現場の管理監督者との合意形成や意思決定を推進するための健康経営推進担当者の存在が不可欠です。
具体的には、CHO(健康最高責任者)など、経営者自らが健康経営の責任者として旗振りを行うことも大切です。また、推進部門と合わせて、労働組合や健康保険組合を巻き込んだ健康経営推進委員会などの設置とともに、経営会議などでのモニタリング体制を定めることも必要となります。さらに、産業医・保健師などの事業場内資源と、健康経営サポート企業などの事業場外資源が連携できる体制の構築も必要です。
③制度・施策の実行
企業としての在りたい姿(To Be)と、従業員の健康課題(As Is)とのギャップを把握したうえで、各企業が経営戦略として最優先するテーマを設定し、そのテーマに対する重点対象者への健康保持・増進に向けた具体的な施策を検討・実行します。
▼制度・施策の進め方
(1) 従業員の健康状態を把握する(健康情報の利活用)
健康経営を実践する上では、前提として、企業として目指す方向性に向けて、自社の従業員の健康上の課題を把握することが必要となります。そこで、企業自身や健保組合等の保険者が保有する従業員データを整理し、これを活用することが望まれます。データの活用においては、新しく何らかの情報を集めることよりも、まずは企業が既に持っているデータから検証していくことも重要です。
(2) 計画(成果目標)を立てる
自社の健康課題を価値創造に転換するための健康経営事業を計画するとともに、取組成果の評価と計画の改善を効果的に行うことができるように、あらかじめ評価指標を設定し、成果の目標を立てる必要があります。この際、可能な限り定量的指標を用いることで、事業後の施策の評価及びその改善策が具体化できることが大切です。
(3) 施策を実行する
策定した計画に沿い、施策を実行していきます。例えば、従業員個人の生活習慣に問題があれば、健康リテラシーの向上を目的に、生活習慣改善のモチベーションを向上させる取組や行動変容を促進する取組を実施することが必要となります。その際には、従業員一人ひとりへのアプローチだけではなく、組織としての取り組みを通じて、生活習慣の改善を促すことや、健康に関する情報提供や運動機会の提供といった活動を通じて、企業全体風土そのものを改善し、全社としての意識向上を図ることなどが考えられます。
しかし、自社の通常業務と併行して健康経営のための取り組みを策定・実施するには、担当者と従業員の両方に負担がかかる可能性があります。現場の負担を抑えつつ、効果が期待できる健康経営の取り組みを実施するには、外部の支援サービスを活用することも一つの方法です。健康経営に取り組むサービスの選び方、ルネサンスが提供している健康支援サービスについてはこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
出典:経済産業省『企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)』を参考に一部内容を改変
④評価・改善の実施
健康経営に関する投資に対して、具体的な便益(ベネフィット)が得られたのかを検証する必要があります。
健康経営優良法人認定制度も、2014年の実施から10年が経過し、多くの企業が経年で取り組むことになったことで、「何に取り組んだのか」という、施策の量以上に、「どんな成果が得られたのか」という施策の効果に、評価加点のウェイトが置かれるようになってきました。
また、取り組みの評価については、従業員の施策への参加率などのアウトプットから施策の改善率などのアウトカム評価が必要となります。さらには、『アブセンティーイズム(※1)』や『プレゼンティーイズム(※2)』、『ワークエンゲイジメント(※3)』といった業務パフォーマンスに関する指標を中心にPDCAサイクルを回していくことが求められるようになります。
▼健康経営の効果が現れるフロー
画像引用元:経済産業省『健康経営の推進について』
※1・・・アブセンティーイズムとは、傷病による欠勤のこと。
※2・・・プレゼンティーイズムとは、出勤はしているものの、健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況のこと。
※3・・・ワークエンゲイジメントとは、仕事へのポジティブで充実した心理状態のこと。
⑤法令遵守・リスクマネジメント
健康経営優良法人認定制度の認定を受けるには、法令遵守とリスクマネジメントに取り組んでいることが前提となります。
健康経営の基盤として、法令遵守は非常に重要です。法令遵守には、労働安全衛生法、労働基準法、労働契約法などの労働関連法が該当します。これらの法令を遵守することで、労働者の安全と健康を確保し、企業のリスクを軽減することができます。
また、安全配慮義務の観点から取り組むリスクマネジメントへの対応は、予防措置や対策の実施によって労働者の健康リスクを最小限に抑えることを目指します。こうした取り組みは、従業員へのマネジメント上の責任を果たすだけでなく、民法上の訴訟リスクを回避するためにも重要です。
最終的には、これらの取り組みにより、従業員の健康と安全を確保するとともに、組織全体での働きやすい環境づくりを推進することができます。結果的に企業の生産性や従業員の満足度も向上する効果が期待できます。
まとめ
この記事では、健康経営への取り組み方について以下の内容を解説しました。
- 健康経営が求められる背景
- 企業が健康経営に取り組むメリット
- 健康経営優良法人認定制度について
- 健康経営優良法人認定制度の認定を目指すための取り組み
健康経営に取り組むことは、従業員の健康問題を起因とするコストの改善のみならず、エンゲージメント向上をはじめ、組織の活性化による生産性向上や、優秀な人材の獲得、定着率の向上につながります。
また、健康経営優良法人認定制度のベースとなる健康経営度調査への参加を通じて、社内の取り組みについて外部評価(フィードバック)を受けることで、自社のポジションを客観的に評価できるようになり、さらなる健康経営の質の向上につながります。ほかにも、社外からの評価を社内に積極的に還元することで、従業員からの信頼の獲得につなげていくことも非常に大切なポイントです。
ぜひ、健康経営度調査に申請する際には、健康経営優良法人の認定をただ受けること自体を目的にするのではなく、認定を受けたことが、従業員にとって、自社に働くことが誇らしいと思えるような、インナーコミュニケーションの工夫についてもご検討いただきたいと思います。
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