プレゼンティーズムを理解する


従業員の健康状態は、仕事のパフォーマンスや生産性に影響します。少子高齢化によって生産年齢人口が減少していくなかで安定した事業基盤を築いていくには、従業員が健康で一人ひとりが能力を最大限に発揮できる労働環境を目指す必要があります。

企業がそのような労働環境を目指すためには、従業員の健康保持・増進を目的とした人的資本への戦略的な投資を行い、健康経営®に取り組むことが重要です。

健康経営に取り組む第一歩は、従業員の心身の健康状態を知ることです。心身の健康状態を測る指標の一つに“プレゼンティーズム”があります。

経営者や人事担当者のなかには「プレゼンティーズムとは何なのか」「どのような方法で測定できるのか」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、プレゼンティーズムの基礎知識と測定方法、測定するメリットについて解説します。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


目次[非表示]

  1. 1.業務パフォーマンスに関わるプレゼンティーズムとは
    1. 1.1.アブセンティーズムとの比較
    2. 1.2.主な原因
    3. 1.3.会社に与える影響
    4. 1.4.プレゼンティーズムの対策
    5. 1.5.ワークエンゲージメントとの比較
  2. 2.プレゼンティーズムの測定方法
    1. 2.1.①WHO-HPQによる測定方法
    2. 2.2.②SPQによる測定方法
  3. 3.プレゼンティーズムを測定して健康を“見える化”する
  4. 4.まとめ


業務パフォーマンスに関わるプレゼンティーズムとは

プレゼンティーズムとは、健康問題に起因した業務パフォーマンスの低下を示す指標の1つです。欠勤には至っていないものの、健康問題を理由に業務の生産性が低下している状態を指します。

例えば、花粉症やストレス反応による心身の不調、睡眠不足などで業務に集中できないような状態が当てはまります。

従業員のパフォーマンスを測る指標には、ほかにも“アブセンティーズム”や“ワーク・エンゲージメント”などが挙げられます。


▼プレゼンティーズム・アブセンティーズム・ワーク・エンゲージメントの意味

指標

意味

プレゼンティーズム

健康問題を理由に出勤時における業務の生産性が低下している状態

アブセンティーズム

健康問題によって欠勤している状態

ワーク・エンゲージメント

仕事に対して充実感がありポジティブに取り組めている心理状態


アブセンティーズムとの比較

アブセンティーズムとは、心身の健康問題によって従業員が仕事を欠勤するなど、労働生産性が低下している状態を指します。プレゼンティーズムとの違いは、“出勤できていない”という点です。


▼プレゼンティーズムとアブセンティーズム

画像引用元:経済産業省『健康経営オフィスレポート


プレゼンティーズムでは、まだ欠勤には至っていないため、勤怠管理上での問題が明らかになっていませんが、心身の不調によって業務のパフォーマンスや活力が低下しており、生産性の低下を招いています。

一方のアブセンティーズムは、心身の不調によって就労が困難になり、欠勤をはじめ遅刻、早退、そして長期の休業など、勤怠管理上の問題が明らかになっている状態を指します。

プレゼンティーズム・アブセンティーズムが発生する原因には、主に以下のような健康問題が考えられています。

主な原因

プレゼンティーズム・アブセンティーズムが発生する主な原因には、主に以下のような健康問題が考えられています。

  • 生活習慣の乱れ
  • 花粉症などのアレルギー反応

  • メンタルヘルス不調

  • 肩こりや腰痛などの筋骨格系の不調

  • インフルエンザや感冒などのウィルス感染症

  • 生活習慣病の重症化や再発など

会社に与える影響

従業員の体調不良は、客観的に測ることが難しく、軽度の場合は一時的な休息や医療で対処できますが、長時間改善されない状態や精神的に不安定な場合においては、症状を悪化させる可能性もあります。長引くプレゼンティーズムは本来発揮できるはずのパフォーマンスの低下につながり、チームや組織にも影響を及ぼし、企業にとって重要なリソースを失うこととなってしまうため深刻な事態になる前に対策を行うことが重要です。

プレゼンティーズムの対策

まずは、従業員の健康リテラシーを向上させ、健康状態を維持・増進することが必要です。健康経営を通して従業員の健康の保持・増進に取り組むことは、プレゼンティーズム・アブセンティーズムの改善につながり、業務パフォーマンスや生産性の向上にも結びつくことが明らかになっています。これらの改善は、従業員だけなく企業にも大きなメリットをもたらすでしょう。


ワークエンゲージメントとの比較


ワーク・エンゲージメントは、仕事に対してポジティブでいきいきと働けている状態を指します。

ワーク・エンゲージメントとは、オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli教授が提唱した考え方で、仕事に対して活力・熱意・没頭の3つが揃った状態と定義されています。

ワーク・エンゲージメントが高い状態は、離職率の低さや、個人の労働生産性、顧客満足度と正の相関があることが検証されています。


▼ワーク・エンゲージメントの定義

画像引用元:厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析 第Ⅱ部 第3章 「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて


プレゼンティーズム・アブセンティーズムとの違いは、健康状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的なポジティブな感情と認知を測ることにあります。


▼ワーク・エンゲージメントとプレゼンティーズム・アブセンティーズムの違い

指標

健康状態を測る対象

健康管理に取り組む目的

ワーク・エンゲージメント

仕事へのやりがい・誇り・活力などの心理的な感情や意識

いきいきと働ける職場環境づくりによって個人や組織の活性化につなげる

プレゼンティーズム・アブセンティーズム

心身の健康問題とそれに起因する欠勤や業務のパフォーマンス

健康問題の解消によって労働生産性の損失をゼロにする


ワーク・エンゲージメントを高めることは、ポジティブで充実した心理状態へと結びつき、健康増進や業務のパフォーマンス向上にも貢献すると考えられています。

2023年度の健康経営度調査票では、プレゼンティーズム・アブセンティーズムに加えてワーク・エンゲージメントの項目が追加されており、健康経営の取り組みの一つとして注目が高まっています。

※優良な健康経営の取り組みを実施している企業を顕彰する“健康経営銘柄”および“健康経営優良法人(大規模法人部門)”の認定のための基礎情報を取得することを目的とした調査


なお、健康経営度調査のフィードバックシートを活用した施策立案については、こちらの記事をご覧ください。

  【健康経営度調査】フィードバックシートを活用した施策立案の方法 企業が従業員の健康保持・増進に取り組むことは、将来的な業績向上や企業価値の向上につながると考えられています。そこで、施策のヒントになるのが健康経営度調査票の『フィードバックシート』です。この記事では、健康経営度調査のフィードバックシートを活用した健康経営の施策立案の方法について解説します。 株式会社ルネサンス


出典:経済産業省『令和5年度 健康経営度調査 (従業員の健康に関する取り組みについての調査)』『健康経営度調査について



プレゼンティーズムの測定方法

プレゼンティーズムの測定は、健康状態や仕事の遂行状況について質問するアンケート調査票を使用して従業員に記入してもらう方法を用いることが一般的です。

2023年度の健康経営度調査票では、プレゼンティーズムを測定する方法として次の6つが挙げられています。


▼プレゼンティーズムの測定方法


測定方法

内容

1

WHO-HPQ(WHO 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙)

WHO(世界保健機関)で世界的に使用されているアンケート調査票。3つの設問を通して絶対的プレゼンティーズムと相対的プレゼンティーズムの2つを評価する。

2

SPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)

東京大学のワーキンググループにて作成されたアンケート調査票。プレゼンティーズムの意味を反映したアンケート1項目で測定する。

3

WLQ(Work Limitations Questionnaire、タフツ大学医学部作成)

タフツ大学で作成されたアンケート調査票
4つの尺度からなる全25問の設問で構成されており、健康問題による業務遂行能力を5段階で把握する。

4

Wfun(Work Functioning Impairment Scale)

産業医科大学で作成されたアンケート調査票。7つの設問から健康問題による労働機能障がいの程度を7~35点で評価して、21点以上を中程度以上の障がいがあると判断する。

5

QQmethod

健康問題に起因する症状の有無を問い、症状が“有り”の場合には、4つの質問を通して仕事への影響度合いを10段階で把握する。

6

WPAI(Work Productivity and Activity Impairment)

過去7日間の就労状況と仕事の遂行状況に関する質問から、労働生産性の損失を評価する。


経済産業省の『健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG』によると、プレゼンティーイズムを測定する方法として“WHO-HPQ”と“SPQ”を用いる企業が多いことが報告されています。


▼プレゼンティーイズムの測定方法に関する調査

画像引用元:経済産業省:『健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG


以下では、それぞれ2つの測定方法について解説します。


①WHO-HPQによる測定方法

WHO-HPQを用いたプレゼンティーズムの測定では、絶対的プレゼンティーズムと相対的プレゼンティーズムの2つの方法で得点の結果が表示されます。


▼絶対的プレゼンティーズムと相対的プレゼンティーズムの測定対象

表示方法

測定対象

絶対的プレゼンティーズム

健康問題と生産性との相関関係

相対的プレゼンティーズム

健康問題による労働生産性の損失への影響


労働生産性の損失を金銭換算したい場合には、日本人の性格的気質を考慮して相対的プレゼンティーズムを用いることが妥当と考えられています。


▼金銭換算によるプレゼンティーズムの算出式

  • 労働生産性損失額(円)= プレゼンティーズム損失割合(%)✖ 賃金(円)
  • プレゼンティーズム損失割合(%)= 100% ー WHO-HPQによる相対的プレゼンティーズム(%)


出典:経済産業省『企業の「健康経営」ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版)』『健康投資管理会計ガイドライン


▼WHO-HPQにおける絶対的プレゼンティーイズムのベンチマーク

産業医科大学 産業保健経営学研究室 森晃爾教授、永田智久准教授らは、WHO-HPQを用いて、従業員規模別、性別、年代別での絶対的プレゼンティーイズムの平均値を開示しています。この結果をベンチマークとして、測定結果と比較することで、自社の良し悪しについて、推測することが可能になります。


絶対的プレゼンティーイズムの平均値については下記サイトでご確認ください。

産業医科大学 産業保健経営学研究室 研究成果物「プレゼンティーイズム」


②SPQによる測定方法

SPQを用いると、1項目の設問によってプレゼンティーズムをより簡便に測定することが可能です。


▼SPQによるプレゼンティーズムの算出式

プレゼンティーイズム=100%ー回答値

例えば、病気やけがのないときに発揮できる仕事のパフォーマンスを100%としたときに、過去4週間における仕事の評価を70%と回答した場合のプレゼンティーズムは30%となります。



プレゼンティーズムを測定して健康を“見える化”する


プレゼンティーズムを測定し、健康問題による業務パフォーマンスの低下を遺失労務費として換算することで、従業員の健康状態をコストとして“見える化”できるようになります。

健康問題による損失コストを見える化することで、健康経営の投資や施策の内容を見直し、従業員の健康状態をよりよくするための合理的な取り組みを推進することができます。

また、従業員に積極的に健康経営の投資を行うことで得られる健康状態の向上により、プレゼンティーイズムコストを改善することを外部に積極的に公表することは、従業員・事業主・地域社会・株主など異なる立場の間で、健康経営への投資について、共通の理解や認識が醸成されると考えられます。その結果、人的資本への投資を効率的に推進して、持続可能な成長基盤の構築につながることが期待できます。

ただし、健康の定義は幅広いため、これらの指標だけでは表しきれない部分もあります。また、プレゼンティーズムを測定する際は、“健康問題を画一的に取り扱い、従業員の健康をコストとしてのみ捉え、企業の利益を高めることだけを目的としないこと”に留意することが必要です。

健康経営で何よりも大切なことは、『従業員をコストではなく資本として捉えること』です。企業の利益と従業員の健康を両立させていくことが、企業と社会の持続的な成長と発展につながるということを、従業員としっかりと共有することで、従業員が自分ゴトとして、健康経営に取り組む風土づくりに取り組みましょう。



まとめ

この記事では、プレゼンティーズムについて以下の内容を解説しました。


  • プレゼンティーズムの意味
  • アブセンティーズムやワーク・エンゲージメントとの比較
  • WHO-HPQとSPQによるプレゼンティーズムの測定方法
  • プレゼンティーズムを測定して健康を“見える化”する際のポイント


プレゼンティーズムの解消を目指して健康経営に取り組み、従業員のヘルスリテラシーを向上させることで、健康問題に関するコスト損失のリスクを回避するとともに、労働生産性の向上につながると期待できます。

健康維持・増進に取り組む際は、投資するコストと得られる効果を把握するために、WHO-HPQやSPQなどの量的・金銭的な指標を用いてプレゼンティーズムを測定することがポイントです。

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