ヘルスリテラシーとは?従業員の健康意識を増進させる企業の取り組み事例
従業員の健康づくりに関わる方は、“ヘルスリテラシー”という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ヘルスリテラシーは、従業員の健康づくりを経営視点で捉えて戦略的に取り組む“健康経営®”(※)を推進するうえで重要なキーワードとなります。
従業員一人ひとりの健康意識を高めて行動変容を促すためには、企業がヘルスリテラシーの向上に取り組むことが必要です。
この記事では、従業員のヘルスリテラシーを高める重要性や企業ができる取り組みについて解説します。
なお、健康経営に取り組むメリットはこちらの記事で紹介しています。
中小企業における健康経営はこちらの資料をご確認ください。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
目次[非表示]
ヘルスリテラシーとは
ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手・理解して、自身の健康管理に活用する能力を指します。
WHO(世界保健機関)では、ヘルスリテラシーを以下のように定義しています。
▼WHOによるヘルスリテラシーの定義
Health literacy is the term used to describe the ability to engage with health information and services.(ヘルスリテラシーとは、健康に関する情報やサービスを活用する能力を表す用語です。)
引用元:WHO『Health Literacy Toolkit』
ヘルスリテラシーは単なる知識にとどまらず、意思決定と行動変容につながる実践的な能力と考えられています。
インターネットやSNSが普及した現在では、健康や医療に関するあらゆる情報があふれています。健康状態や心身の悩みは一人ひとり異なるため、本当に必要な情報を見極めて自分に合った行動を選択することが必要です。
また、アクセスできる数多くの情報のなかには、信憑性が低い情報や嘘の情報が含まれている可能性もあります。入手した情報の根拠を調査して信憑性を評価したり、活用すべきか判断したりすることが求められます。
ヘルスリテラシーを高めることは、一人ひとりの情報格差を解消して、能動的かつ継続的な健康行動と医療機関の適正利用を促進する目的があります。職場においては、信頼できる情報の提供を行うとともに、従業員の理解と実践を促す支援が求められています。
出典:WHO『Health Literacy Toolkit』
従業員のヘルスリテラシーを高める重要性
健康経営を推進するには、従業員が健康でいきいきと働ける組織風土の醸成に加えて、一人ひとりが自身の健康に関心を持ち、自発的に健康行動をとれるようにヘルスリテラシーを向上させることが重要です。
ヘルスリテラシーの高低により、健康に関する意識や行動に違いが見られます。
▼ヘルスリテラシーが低い場合
- 自身の健康に関心が低く、必要な生活習慣の改善に取り組まない
- セルフケアや病気、薬などに関する誤った情報を信じてしまう
- 心身の不調があっても医療機関を受診しない など
▼ヘルスリテラシーが高い場合
- 自らの健康に関心を持ち、健康的な生活習慣の実践に努めることができる
- 健診結果に応じて適切な生活習慣の改善行動に取り組むことができる
- 不定愁訴がある場合には、適切な医療機関を選択して受診できる など
従業員の行動変容を促進するためには、まずヘルスリテラシーを高めることが重要です。そのうえで、従業員自身が自らの健康に関心を持ち、主体的に健康づくりに取り組むよう促すことが求められます。
従業員のヘルスリテラシー向上によるアウトカム
従業員のヘルスリテラシーを高めることにより、日常的な健康行動が促進されてさまざまなアウトカム(※)が期待されます。
※アウトカムとは、行動・施策・プロジェクトなどによって得られた成果や効果のこと。
健康経営施策の成果向上
ヘルスリテラシーの向上は、健康経営施策の成果を高めることにつながります。
企業が健康行動を促すための働きかけや支援を行っても、従業員自身が必要性を理解していない状態では、健康経営施策を浸透させることは難しくなります。
ヘルスリテラシーが身につくことにより、従業員の健康に対する意識が向上して、企業とともに積極的な健康づくりが推進されると期待されます。
また、現状のヘルスリテラシーレベルを把握することで、興味関心度や知識に合わせた施策を検討できます。定期的に健康意識や行動改善に関する効果を評価することは、健康経営優良法人(※)の認定を受けるうえでも必要とされています。
健康経営の認定要件についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
※健康経営に取り組む優良な企業を認定する制度
出典:ACTION!健康経営『令和6年度 健康経営度調査』
定期健康診断結果の改善
ヘルスリテラシー向上によるアウトカムの一つに、定期健康診断結果の改善が挙げられます。定期健診は、単なる健康状態のチェックではなく「未病に気づき、行動変容を起こすきっかけ」となる重要な機会です。
従業員のヘルスリテラシーが向上すると、自身の健康状態に主体的な関心を持つようになります。生活習慣病のように見過ごされがちな症状や有所見に至らない検査値の変化にも、“自分ごと化”して対応できるようになります。
また、正しい情報を理解して生活習慣や働き方を見直す力がつくことで、日常的な健康行動の質が向上します。従業員の自発的かつ質の高い健康行動が促進されることで、定期健康診断結果の改善を目指せるようになります。
なお、健診結果は、健康経営の浸透度・実行度を外部から評価する指標の一つとされており、従業員の健康状態を可視化して施策の改善サイクルを回す基盤になります。健診データを蓄積・管理して健康状態の経年変化を数値として把握することで、根拠に基づいて現状課題と今後の対応を検討できるようになります。
従業員のヘルスリテラシーを高める企業の取り組み
従業員のヘルスリテラシーを高めるには、健康について考える機会を設けたり、実際の行動に移すための正しい知識を提供したりすることがポイントです。
➀健康情報の発信
従業員のセルフケアや正しい健康知識の習得に役立つ情報を発信する取り組みです。企業が積極的な情報発信を行うことで、健康に対して興味関心を持つきっかけになったり、生活習慣の見直しを促したりできます。
▼健康に関する情報を発信する方法
- 信頼性の高いエビデンスに基づいた健康情報の選択
- 社内ポータルサイトでのコラムや動画コンテンツの配信
- 従業員宛てのメールマガジンの配信
- オフィスの廊下や休憩室などへのポスターの掲示 など
②健康プログラムの実施
健康について学ぶセミナーや実践プログラムを実施する方法があります。
生活習慣や病気の予防などに関する理解を促進して、健康づくりに対する具体的な実践方法を支援することが可能です。Web型のプログラムやeラーニングを併用することで、業務に忙しい従業員やテレワーク中の従業員にも参加を促せます。
▼ルネサンスが提供する健康プログラムの例
テーマ |
プログラム |
概要 |
食生活 |
正しい腸活を理解し、腸の働きを活性化させる食生活と運動の方法を実践を通して学ぶ。 |
|
睡眠 |
睡眠の質を上げるためのセルフケアメソッドを習得・実践して、仕事のパフォーマンス向上を狙う。 |
|
運動習慣 |
体の状態を振り返り、体を動かすことのメリットを伝えることで、運動不足の解消と活動量を増やすきっかけをつくる。 |
|
喫煙 |
喫煙が与える健康被害や「受動喫煙」による健康被害、禁煙による効果などを学ぶ。非喫煙者による禁煙サポートも行えるようにする。 |
|
肩こり・腰痛・眼精疲労 |
疲れにくい作業環境や作業姿勢を学ぶ。また、疲労回復のストレッチや眼精疲労予防のセルフマッサージを体験する。 |
|
女性の健康に関する悩み |
女性のライフステージごとの健康課題や症状を知り、対処方法や自分なりのリラックス方法を見つける。 |
③PHR(パーソナルヘルスレコード)サービスの導入
従業員による健康管理やセルフケアをサポートするために、健康状態の見える化を支援するウェアラブルデバイスや、適切な健康行動を支援するアプリケーションなどを導入することも一つの方法です。
自身の健康状態を知り問題点を把握したり、生活習慣の改善提案が受けられたりするPHRサービスがあると、従業員自身による健康行動が継続されやすくなります。
▼PHRサービスの例
サービス例 |
概要 |
---|---|
睡眠データを活用した生活リズムの最適化支援 |
睡眠時間・睡眠の質などを可視化し、生活リズム改善のためのアドバイスを提供。 |
健診データに基づく健康リスクの予測・生活改善支援 |
健診結果と問診から疾病リスクを分析し、リスクの高い従業員に個別の生活改善支援を提供。 |
食生活改善を支援する栄養アセスメント・食事記録サービス |
食事内容を記録・分析し、栄養バランスを可視化。食生活アドバイスや目標設定を支援の解消と活動量を増やすきっかけをつくる。 |
運動習慣獲得を支援する個別最適化プログラム |
身体活動量、体力測定データをもとに、具体的な運動実施を支援するプログラムの提供。 |
服薬・体調データ連携による服薬管理および副作用予防サービス |
薬剤の副作用や飲み合わせを早期に察知し、必要に応じて医師受診を促す仕組み。 |
ストレス状態の可視化とセルフケア行動のサポートサービス |
心理状態の記録からストレス傾向を可視化しリラクゼーション方法やカウンセリングを提供。 |
④健康習慣づくりに役立つ環境整備
職場環境の見直しや福利厚生の導入を通じて、従業員の健康習慣を定着させる取り組みも必要です。
社内の設備や制度の導入を通じて健康づくりを支援することで、組織風土が醸成されて従業員一人ひとりの行動変容が促されると期待できます。
▼健康習慣づくりに役立つ設備や福利厚生
- ストレッチやトレーニングができるフィットネスルームの設置
- リフレッシュや適切な休憩取得を促すリラクセーションルームの設置
- 栄養バランスに配慮された置き食や配食サービスの導入
- 民間のスポーツクラブやオンラインフィットネスの利用補助 など
企業がヘルスリテラシーの向上に取り組む際のポイント
企業が従業員のヘルスリテラシー向上に取り組むにあたって、以下の2つのポイントがあります。
➀従業員が“正しい情報”を取得できる環境を整備すること
インターネットやSNS上にあふれている信頼性に乏しい情報を利用してしまい、従業員が誤った自己判断をしないように、“正しい情報”を取得できる環境を整備することが重要です。
▼取り組むポイント
- 産業保健スタッフや専門家が監修する社内健康ポータルの整備
- 政府が公表する健康情報や活用できる資料の発信
- セルフケアに役立つPHRサービスの導入と活用支援
- 健康に対する関心を高めるトピックの配信 など
情報発信を行う際は、「企業の方針として従業員の健康管理を支える」といったメッセージを伝えます。また、企業側の一方通行で終わることのないように、対話やフィードバックの機会を組み込むことも必要です。
②情報を“理解して活用する”支援を行うこと
従業員に情報を提供するだけでは、具体的な健康行動に結びつきにくくなります。行動変容を促すためには、「理解して行動に移す力(=応用的ヘルスリテラシー)」を育むことが大切です。
▼取り組むポイント
- 職場内での健康セミナーやワークショップの開催
- 健診結果やアンケートに基づく専門的かつパーソナライズした健康支援
- 継続的な取り組みを支援するeラーニングやアプリの導入 など
また、ヘルスリテラシー向上の支援に取り組む際は、従業員ごとに異なるリテラシーレベル(年代・職種・IT習熟度)に配慮する必要があります。
ルネサンスのサービスを活用したヘルスリテラシー向上の実践事例
ルネサンスでは、ヘルスリテラシーを高めるために役立つプログラムを通じて健康経営を支援するサービス『スマートAction』を提供しています。
ここからは、『スマートAction』を活用して従業員のヘルスリテラシー向上を実現した企業さまの事例を紹介します。
▼導入前の課題
これまでeラーニングで運動コンテンツを配信していたものの、内容に偏りがあり従業員にあまり利用されていない状況でした。
▼スマートActionを選んだ理由
ヘルスリテラシー向上に役立つ豊富なコンテンツや、サービス導入までのサポートの充実、健康経営度調査の項目を多く網羅できることなどから、スマートActionをお選びいただきました。
▼導入効果
日常的にコンテンツを利用する従業員が増えてヘルスリテラシーの向上効果が見られました。今後は、利用状況や分析結果を踏まえた企画の策定によってさらなる利用率の向上を目指したいとのことです。
まとめ
この記事では、ヘルスリテラシーについて以下の内容を解説しました。
- ヘルスリテラシーの意味
- 従業員のヘルスリテラシーを高める重要性
- 従業員のヘルスリテラシー向上によるアウトカム
- 企業が行えるヘルスリテラシー向上の取り組み
- 企業がヘルスリテラシーの向上に取り組む際のポイント
- ルネサンスのサービスを活用した実践事例
健康経営を推進するには、従業員の意識改革と行動変容を促すことが重要です。そのためには、健康づくりに関する理解を促進して日常生活に取り入れるためのヘルスリテラシーが必要になります。
企業が正しい情報提供や健康的な生活習慣の形成をサポートすることで、従業員一人ひとりのヘルスリテラシーが高まり、健康増進・維持に対する自発的な行動が促されると期待できます。
ルネサンスでは、健康経営を支援するサービス『スマートAction』を提供しています。ヘルスリテラシーを高めるためのセミナーや健康プログラムなどを豊富に用意しており、目的と健康課題に応じてご活用いただけます。
健康経営の基礎知識や企業の健康づくりを支援するサービスについては、こちらからご確認ください。