健康経営の課題と効率的な進め方とは? ナッジを活用したアプローチを紹介
少子高齢化や働き方の変化など、企業を取り巻く環境が大きく変わるなかで、労働者の健康課題が増加しています。定期健康診断の有所見率は増加傾向にあるほか、メタボリックシンドローム予備群の割合も増えつつあり、企業には従業員の健康保持増進に向けた取組みが求められています。
健康経営®(※1)は、従業員の健康管理を経営的な視点で捉えて、戦略的に実施することです。従業員の活力向上や生産性向上につながり、ひいては企業価値の向上、採用の強化にも貢献すると期待されています。
しかし、従業員のなかには健康保持増進に無関心な人もいるため、思うように健康経営の取組みを進められないというケースもあるのではないでしょうか。
本記事では、健康経営の課題をはじめ、従業員の積極的な参加を促すための“ナッジ(※2)”を活用したアプローチについて解説します。
※1・・・「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※2・・・ナッジとは、行動科学の知見を活用して、自分自身にとってよりよい選択肢を自発的に行えるようにそっと後押しすること。
出典:厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』
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目次[非表示]
- 1.健康経営の目的とは?
- 2.健康経営の課題
- 2.1.①効果が見えにくい
- 2.2.②従業員の健康意識
- 2.3.③施策への参加率が低い
- 3.健康経営の具体的な進め方
- 3.1.経営理念・方針の確立
- 3.2.体制を整える
- 3.3.課題を明確化する
- 3.4.計画の作成・実行
- 3.5.評価・改善する
- 4.健康経営を効果的に進めるポイント
- 4.1.①従業員の健康リテラシーと自主性を高める
- 4.2.②参加ハードルを下げ、従業員目線で考える
- 4.3.③経営層を巻き込む
- 5.ナッジを活用した健康経営
- 6.まとめ
健康経営の目的とは?
健康経営は、企業の経営において重要な「人」に焦点を当てたアプローチです。
従業員を単なるコストではなく、資本として活用し、新たな企業価値や付加価値を創出するために、従業員への投資を行います。従業員の心身の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することが健康経営の本質です。
従業員への健康投資は、活力向上や生産性向上をもたらし、組織の活性化に寄与します。結果的に、業績向上や株価向上が期待されます。
健康経営の課題
健康経営を進めるうえでの課題として、以下の3つが挙げられます。
①効果が見えにくい
健康経営の課題の一つに、施策の効果が見えにくいことが挙げられます。
企業が健康経営をとおして得られる効果には、従業員の活力向上や組織の活性化、業績の向上などが挙げられます。しかし、健康経営の取組みは数値化することが難しいため、効果が見えにくい点があります。
健康経営は長期的な取組みになるため、施策によっては効果が見えにくい点があると理解したうえで、施策を考えることが重要です。
出典:経済産業省『健康経営』
②従業員の健康意識
従業員の健康意識にバラつきがあることも、健康経営の課題の一つです。
従業員のなかには、健康増進の取組みに無関心な人もいると考えられます。無関心な従業員にも、健康増進に向けた取組みに参加してもらうには、従業員の意欲を高める工夫や、無意識での行動変容につながる活動が必要です。
出典:厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』『3.メンタルヘルス対策からはじめる労働者の健康意識改革』
③施策への参加率が低い
健康経営の課題には、施策への参加率が低いことも挙げられます。
参加率が低い原因として、従業員の健康意識の低さや、健康経営の目標が不明確なことなどが考えられます。参加率を高めるためには、事業場の健康経営の方針を表明して、健康意識の低い従業員も自然と参加できるような施策が求められます。
また、健康経営の取組みは、主に2つに分けられます。
▼健康経営の取組み
種類 |
対象と施策 |
ハイリスクアプローチ |
健康課題を有する従業員を対象とした健康改善施策 |
ポピュレーションアプローチ |
従業員を集団と捉えた事業場全体の健康改善施策 |
厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』を基に作成
健康経営を効果的に進めて事業場全体の健康リスクを低減させるには、両方を組み合わせたうえで、健康課題の有無にかかわらず従業員に参加を促すことが重要です。
出典:厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』『3.メンタルヘルス対策からはじめる労働者の健康意識改革』
健康経営の具体的な進め方
経営理念・方針の確立
まずは健康経営への取り組みの背景や目的、体制、展開予定を整理し明確にしましょう。
- なぜ取り組むのか
- 実現したいことは何か
- 体制はどのようにするのか
- 展開、推進はどのようにしていくか
詳細は決めようとせず、大枠を提示しましょう。
体制を整える
健康経営の推進体制を整える際には、プロジェクトチームの発足や部署の主担当を指名することが重要です。主担当に「健康経営アドバイザー」などを取得させるのも有効的ですが、取得が難しい場合は外部人材を採用する手段もあります。
取り組みの質を高めるために、健康経営アドバイザーや健康経営エキスパートアドバイザーの活用も検討しましょう。
課題を明確化する
取り組むべき課題を明確化するためには、健康診断やストレスチェックの結果、残業時間、休職者数、離職者数などのデータを分析します。特定した課題に対しては、優先順位をつけて取り組みましょう。
計画の作成・実行
健康経営の取り組みは、短期的な効果測定が難しいため、長期的な計画が必要です。優先順位が高く、負担の少ない取り組みからスタートさせ、実効性を高めていくことがおすすめです。
評価・改善する
健康経営の取り組みを実行する際には、定期的な評価と改善が必要です。長期的な取り組みのため、1か月に一度など定期的な評価を行い、必要に応じてテコ入れや改善を行います。途中経過を社内で共有することで、啓蒙や参画意識の向上にもつながります。
健康経営を効果的に進めるポイント
①従業員の健康リテラシーと自主性を高める
健康経営を効果的に進めるには、従業員の健康意識を高めて、自主的に施策に参加してもらうことが重要です。
健康保持増進の取組みを行う際、業務が忙しい従業員や健康課題を認識していない従業員は、参加のメリットを感じなかったり、ストレスにつながったりする可能性があります。
健康リテラシーを向上させる方法やメリット、ポイントについての詳細は、こちらの記事をご確認ください。
②参加ハードルを下げ、従業員目線で考える
事業場が提案した取組みに対して、参加のハードルが高いと感じられると、健康につながると分かっていても踏み切れない従業員もいると考えられます。職場における健康促進の対策に参加してもらうには、楽しみながら取組めて、自然と行動が変化するような仕組みをつくることがポイントとなります。
出典:厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』
③経営層を巻き込む
経営層やマジメント層が積極的に取り組み、リーダーシップを発揮してもらうことがポイントです。経営層が自ら呼びかけることや、部署単位で参加を促し、競い合うような工夫をすると、従業員のモチベーションが上がり、組織全体で健康経営が推進されます。
ナッジを活用した健康経営
健康無関心層の従業員も含めて、健康に関する施策への参加を促すには、ナッジを活用したアプローチも有効な方法です。規則や罰則によって行動を促すのではなく、意思決定を誘導することで、自然とよい行動がとれるようになります。
健康経営においては、施策に参加するハードルやストレスを感じさせずに、従業員の自発的な行動変容につなげるためにナッジを活用できます。
健康経営にナッジを取り入れたアプローチ例として、以下が挙げられます。
▼無意識かつ自然な取組みを後押しする例
- 休憩スペースに健康測定機器や運動器具を設置して、自主的かつ気軽に健康づくりを行える環境をつくる
- 社内の自動販売機に特定保健用食品や低カロリー食品を配置して、栄養を考慮したものを自然に選んでもらう など
▼楽しみながらストレスなく取組んでもらう例
- ウォーキングアプリを導入して従業員同士の歩数ランキングを競う
- 朝礼時にストレッチや軽いトレーニングを実施する など
なお、健康経営の推進で期待できる効果と取組み事例については、こちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
出典:厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』『健康無関心層にまで届く 健康づくりを目指して』
まとめ
この記事では、健康経営の進め方について以下の内容を解説しました。
- 健康経営の目的とは
- 健康経営の課題
- 健康経営を効果的に進めるために大切なこと
- ナッジを活用した健康経営
健康経営を推進するうえでの課題には、効果が見えにくいことや、従業員の健康意識にバラつきがあること、施策への参加率が低いことなどが挙げられます。
健康保持増進の取組みを効果的に進めるには、健康経営の方針を表明するとともに、従業員の健康意識を高めて自主的に施策に参加してもらうことが重要です。
ナッジを取り入れたアプローチを行うことで、参加のハードルやストレスをなくして、施策への参加を自然と促せるようになります。従業員が参加しやすい働きかけを行うために、健康経営にナッジを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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