健康経営宣言とは? 社内外に発信するメリットと制定方法
企業が持続的な成長を目指すには、人的資本への戦略的な投資を通して健康経営®(※)に取り組み、従業員の活力向上や組織の活性化を図ることが重要です。健康経営を推進する第一歩となる取り組みに“健康経営宣言”があります。
従業員の健康管理に携わる企業担当者のなかには、「健康経営宣言とは何か」「どのような方法や手順で宣言を行うのか」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、健康経営宣言の概要や社内外に発信するメリット、具体的な制定方法について解説します。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
出典:経済産業省『健康経営』
目次[非表示]
- 1.重要性が高まる健康経営
- 2.健康経営宣言とは
- 3.健康経営宣言を制定して発信するメリット
- 4.健康経営宣言を制定する方法
- 5.まとめ
重要性が高まる健康経営
健康経営は、従業員の健康を企業における競争力の源泉と捉えて、人的資本に対する投資を戦略的に行う経営の考え方です。健康経営が重要とされるようになった背景には、以下のような社会的な要請が挙げられます。
▼健康経営の重要性が高まる状況に至った社会的な要請
- 少子高齢化が進行するなかで安定した労働力を確保すること
- 国際的なテーマとされるESG投資(※1)やSDGs(※2)などの循環型社会を実現すること
- 株主資本主義から公益資本主義へと移行して、株主の利益だけでなく社会と従業員にも責務を果たす必要があること など
少子高齢化が進む日本では、労働人口に占める高齢労働者数が増加しており、従業員の健康・体力に関する課題が今後さらに顕在化すると考えられます。企業が経済活動を維持するための労働力を確保するには、従業員が健康で長く働き続けられる環境をつくることが求められます。
また、健康経営は法令遵守や安全配慮義務の観点だけでなく、先行き不透明な情勢において企業の持続可能性を高めるとともに、社会的な責務を果たすためにも重要です。
従業員の健康を守るための投資を行い企業成長の土台をつくることで、組織の活性化や企業価値の創出につながり、社会の発展にも結びつくと考えられます。
なお、健康経営優良法人や健康経営のメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
※1…ESG投資とは、企業の財務情報だけでなく環境および社会への配慮や企業統治の向上などの情報を加味して行われる投資です。
※2…SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2015年9月に国連で採択された国際的な開発目標です。
出典:経済産業省『健康経営』『未来を築く、健康経営』
健康経営宣言とは
健康経営宣言とは、企業全体における健康経営の取り組みを社内外に宣言することを指します。
企業が健康経営宣言を制定して社内外に発信することは、健康経営の顕彰制度となる『健康経営優良法人』の中小規模法人部門において、認定要件の必須条件に定められています。
▼健康経営優良法人2024(中小規模法人部門)認定要件
画像引用元:『ACTION!健康経営(日本経済新聞社)』
また、中小規模法人部門において健康経営優良法人の認定制度へ申請する際には、企業が加入する保険者が運営する“健康宣言事業”に参加して、認定を受けることが必要です。
健康宣言事業の名称は保険者や支部によって異なっており、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、東京支部では“健康企業宣言®(※)”、大阪支部では“健康宣言”と呼ばれています。
なお、大規模法人部門では保険者が運営する健康宣言事業への参加は必須とされていませんが、健康宣言事業を確認して保険者と連携しながら、健康経営の方針について社内外に発信することが必須条件に定められています。
※健康企業宣言は、全国健康保険協会の登録商標です。
出典:『ACTION!健康経営(日本経済新聞社)』
健康経営宣言を制定して発信するメリット
健康経営宣言を制定することにより、社内外によい影響がもたらされると期待できます。
▼健康経営宣言のメリット
- 経営層のコミットメントによる組織風土の醸成
- 取引先や投資家による企業評価の向上
- 優秀な人材の確保 など
経営層が主体となって経営理念や方針に基づいた健康経営宣言を行うことで、従業員に対する組織への信頼を高め、組織全体で健康経営に対する意識の向上が図れます。
従業員一人ひとりの健康意識が高まれば、長時間労働の是正やハラスメントの防止、生活習慣の見直しなどの行動変容が促されます。その結果、心身の不調による休業や労働災害を防げるほか、エンゲージメントの向上による生産性向上にも結びつくと考えられます。
また、社外に向けて健康経営に取り組む姿勢をアピールし、従業員と社会への責務を果たすことで、企業イメージの向上を図ることが可能です。これにより、取引先や投資家による企業評価が高まったり、労働市場において優秀な人材の確保につながったりすることが期待できます。
健康経営宣言を制定する方法
健康経営宣言を制定する際は、「なぜ取り組むのか」「なにをどのように実行するのか」といった戦略を立てて、自社の健康経営に対する方針や目標を決めることが重要です。
①健康経営に取り組む目的を明らかにする
健康経営宣言を行う際は、経営者の視点から健康経営に取り組む目的を明確にする必要があります。
▼健康経営に取り組む目的の例
- 従業員の健康度や活力の向上
- ワークスタイルの変革による組織での生産性の向上
- 従業員からの信頼を土台とする労働市場からの評価の向上
- 社会からの信頼の獲得による株価への影響 など
自社の企業理念・社是や経営計画などの経営戦略を踏まえて「何のために健康経営を行うのか」を明らかにすることで、目的を達成するまでの計画を立てやすくなるほか、社内で同じ意識を持って取り組めるようになります。
②健康に関する課題を把握して目標を設定する
従業員の健康づくりにおいて、現在自社でどのような課題があるのかを把握したうえで目標を設定します。自社の課題を把握する際は、健康づくりに関する取り組み状況を洗い出すことがポイントです。
▼健康づくりの取り組み状況を確認する項目例
項目 |
内容 |
健康診断 |
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職場環境 |
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生活習慣 |
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心の健康 |
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エンゲージメント |
|
課題を把握したあとは、どれくらいの改善を目指すのか目標を設定します。抽象的な内容ではなく、割合や人数などの具体的な数値で定めることがポイントです。また、最終目標として、あるべき状態(ゴール)を定めた上で時間軸で中間目標を設定していくことが大切です。
▼最終目標設定の例
- 定期健康診断の受診率と再検査受診率を100%にする
- 総合判定結果に基づく重点対象者の保健指導の実施率を100%にする
- ストレスチェックの総合健康リスクを全国平均100以下となる70にする
- 高ストレス職場の数を50%減少する
- 週2回、1回30分以上の運動実施率を100%にする
- 喫煙者を0%にする
- 従業員エンゲージメントのスコアを80以上にする など
また、目標設定に関しては、重点的に健康づくりに取り組む従業員や対象とする部署などを明確にしておくことも必要です。
③目標達成に向けて取り組む施策を決定する
課題と目標を明確にしたあとは、目標を達成するための具体的な施策を決定します。
▼目標達成に向けた取り組みの例
- 産業医や専門家と連携したオンラインサービスを導入する
- メンタルヘルスケアや睡眠などに関する研修・セミナーを実施する
- 自宅などでセルフケアを実施できる動画コンテンツやサービスを導入する
- 就業時間中での定期的な運動実施の機会を設ける
- 管理職に健康経営を推進するためのヘルスマネジメント研修を導入する
- 定期的な健康調査を実施してスコアに応じた健康支援策を導入する など
健康経営の施策を決定したら、健康経営宣言を作成して公開します。なお、保険者の健康宣言事業に参加する際は、健康経営宣言書やエントリーシートなどの書類を提出して申請を行う必要があります。詳しくは、保険者へご確認ください。
④目標の達成度をモニタリングして評価する
健康経営宣言を公開したあとは、取り組みの進捗状況をモニタリングして目標の達成度を評価します。
健康経営の取り組みについて評価を行う際は、構造・過程・結果の3視点から達成状況を確認することがポイントです。
▼健康経営の取り組みを評価する視点
視点 |
確認するポイント |
構造 |
経営層の姿勢や組織体制に問題がないか |
過程 |
健康づくりの施策がきちんと機能しているか |
結果 |
健康づくりの施策が従業員の健康や企業利益に結びついているか |
継続的にモニタリングと評価を行いPDCAを回すことで、新たな課題の発見やより効果的な施策の検討につながり、効率的に取り組めるようになります。
まとめ
この記事では、健康経営宣言について以下の内容を解説しました。
- 健康経営の重要性
- 健康経営宣言の概要
- 健康経営宣言を制定して発信するメリット
- 健康経営宣言を制定する方法
健康経営は、従業員が健康で長く働き続けられる環境をつくって労働力を確保するとともに、企業の持続的な成長ひいては社会の発展につながる重要な取り組みといえます。
健康経営宣言を行うことで、健康に対する組織全体の意識向上を図れるほか、企業イメージが向上して取引先や投資家の評価向上につながったり、優秀な人材確保に貢献したりすると期待できます。
企業が健康経営宣言を制定する際は、経営戦略を踏まえて健康経営の目的を明確にするとともに、課題の把握と目標の設定を行ったうえで具体的な施策を決めることがポイントです。また、宣言後は継続的にモニタリングと評価を行い、達成状況を踏まえて改善につなげることも重要です。
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