人的資本経営での人材育成・職場環境の整備・健康増進を支援する助成金・補助金の概要

近年、企業価値を左右する重要な要素として“人的資本”が注目を集めています。人材を単なる労働力としてではなく、企業の持続的な成長を支える“資本”として捉え、育成・健康維持・働きがい向上などに積極的に投資していくことが求められています。
国や自治体では、企業が人材の育成や労働環境の改善、安全で持続的な雇用体制の構築などに取り組む際の費用負担を軽減するための助成金・補助金を提供しています。こうした制度を活用することで、結果的に従業員の能力開発や健康的な職場づくりといった人的資本投資をより効果的に進められます。
この記事では、人的資本経営への波及効果も見込まれる代表的な補助金・助成金や活用の流れ、注意点を解説します。
なお、人的資本経営に関する資料はこちらからダウンロードいただけます。
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目次[非表示]
- 1.人的資本経営における“健康・人材投資”の重要性
- 2.人的資本経営における助成金・補助金活用の意義
- 3.目的別にみる主な助成金・補助金
- 3.1.人材育成・スキルアップ支援
- 3.1.1.人材開発支援助成金
- 3.1.2.キャリアアップ助成金
- 3.1.3.産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
- 3.2.職場環境の整備
- 3.3.健康増進・安全への投資支援
- 3.3.1.受動喫煙防止対策助成金
- 3.3.2.エイジフレンドリー補助金
- 4.助成金・補助金活用の流れ
- 5.助成金・補助金活用の注意点
- 6.まとめ
人的資本経営における“健康・人材投資”の重要性
人的資本経営とは、従業員をコストではなく“投資対象”として捉え、その能力・意欲・健康を高めることで企業価値の向上につなげる経営の考え方です。従業員一人ひとりが健康で働きやすく、自律的に成長できる環境を整えることは、生産性の向上、離職防止、採用競争力の強化など多くの効果を生み出します。
特に、次の3つは人的資本経営において欠かせない投資領域です。
投資領域 | 期待できる効果 |
人材育成 | リスキリング(※1)や管理職の育成を通じて、変化に強い組織をつくる |
健康維持・増進 | プレゼンティーズム(※2)を防ぎ、集中して働ける環境を整える |
働きやすさの向上 | 多様な人材が活躍できる柔軟な制度・職場環境を整備する |
こうした取り組みは長期的な成長戦略の一部であり、同時に国が推進する“人的資本開示”の観点からも、企業価値を示す重要な指標となっています。
実際に、経済産業省の資料『人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組』には、67%の投資家が“企業の持続的な成長には人材投資が重要”と考えていると記載されています。
画像引用元:経済産業省『人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組』
※1・・・リスキリングとは、仕事で新しい業務・技術・役割に対応するために、必要なスキルを習得する(させる)こと
※2・・・プレゼンティーズムとは、健康問題による出勤時の生産性低下のこと
なお。人的資本経営の考え方や取り組むメリットなどはこちらの記事で解説しています。
出典:経済産業省『人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組』
人的資本経営における助成金・補助金活用の意義
助成金・補助金というと、コスト削減のための一時的な支援というイメージを持たれがちですが、実際には“中長期的な人的資本への投資を後押しする戦略的な仕組み”として活用できます。
例えば、従業員の研修やリスキリングなどの人材育成には相応のコストが伴いますが、助成金・補助金を活用することで費用負担を抑えつつ、計画的な育成プログラムを実施できます。また、職場環境の改善や安全対策、健康維持・増進の取り組みも、制度を活用すれば一過性ではなく継続的な施策として推進しやすくなります。
ここで重要なのは、「制度があるから活用する」という後追いの姿勢ではなく、自社の人的資本戦略の一部として計画的に制度活用を組み込むことです。そうすることで、助成金・補助金は単なる資金支援にとどまらず、投資効果を最大化し、組織の成長を加速させる経営施策へと昇華させることができます。
目的別にみる主な助成金・補助金
人的資本への投資は、「人材育成」「職場環境の整備」「健康増進・安全の確保」といった複数の領域に分けて考えると整理しやすくなります。
人材育成・スキルアップ支援
変化の激しいビジネス環境のなかで、従業員が新たなスキルや知識を身につけ続けることは、企業の競争力を高める上で欠かせません。国や自治体はこうした取り組みを後押しするため、研修・リスキリング・OJTなどを支援する助成金・補助金を用意しています。
人材開発支援助成金
企業が従業員に対して職業訓練や教育プログラムを実施する際に、訓練費用の一部や研修期間中の賃金の一部を助成する制度です。内容や対象に応じて複数のコースが用意されています。代表的なものには次のようなコースがあります。
▼代表的なコース
人材育成支援コース
教育訓練休暇等付与コース
人への投資促進コース
事業展開等リスキリング支援コース
建設労働者認定訓練コース
建設労働者技能実習コース
障害者職業能力開発コース
▼助成金の内容
画像引用元:厚生労働省『人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)』
支給対象や助成金額などは、年度によって変更される場合があります。また、本掲載内容についても、雇用保険の適用を受ける事業主が対象となりますが、助成額や助成率はコースによって異なります。詳細につきましては、最新の情報を厚生労働省の公式サイト等でご確認ください。
出典:厚生労働省『人材開発支援助成金』『人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)』
キャリアアップ助成金
主に「非正規雇用の労働者(有期・短時間・派遣など)」の処遇改善やキャリア形成を支援するための国の助成制度です。企業が、非正規社員の正社員化や賃金アップ、スキル向上のための制度整備などに取り組んだ際、その費用の一部が助成されます。
▼助成金の内容

画像引用元:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度7月)』
支給対象は有期・短時間・派遣労働者を雇用する事業主(中小・大企業)が対象で助成額はコースによって異なります。また、年度によっても対象や金額が変更される場合があるため、詳細については最新の情報を厚生労働省の公式サイト等でご確認ください。
出典:厚生労働省『キャリアアップ助成金』『キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度7月)』
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
人材育成やキャリア形成を支援する制度で、企業が従業員に対して職業訓練や教育研修を行った際、その研修費用や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。本制度を活用することで、社内人材のスキル向上だけでなく、中長期的な人材戦略の実現やエンゲージメント向上にもつなげることが可能です。
▼助成金の内容
画像引用元:厚生労働省『産業雇用安定助成金ガイドブックスキルアップ支援コース』
支給対象は、雇用保険の適用事業主であり、かつ労働環境の改善や人材育成のために計画的な職業訓練を実施する事業主です。
▼主な条件
出向や社内研修などを通じて従業員のスキルアップを図る計画を策定していること
その計画について事前に労働局へ届出を行っていること
助成対象となる訓練期間中も継続して雇用関係があること など
また、労働関係法令違反がある場合や雇用保険料の納付が滞っている場合は支給対象外となるため、申請前に自社の状況を確認しておくことが重要です。詳細は厚生労働省のサイトをご確認ください。
出典:厚生労働省『産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)』『産業雇用安定助成金ガイドブックスキルアップ支援コース』
職場環境の整備
企業が持続的に成長していくためには、従業員が安心して働ける環境を整えることが欠かせません。特に近年は「働き方改革」や「人材の多様化」への対応が経営課題となっており、労働時間の是正・柔軟な就業制度・福利厚生の充実など、環境整備に向けた投資が企業価値の向上につながります。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
中小企業が時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入など、働き方改革の実現に向けた取り組みを行う際に、その費用の一部を助成する制度です。助成対象となる取り組みには、勤怠管理システムや労務管理ソフトの導入、就業規則や36協定の見直し、社内研修や啓発活動の実施などが含まれます。
また、支給対象になるのは、以下すべてに該当する中小企業事業主です。
(1)労働者災害補償保険の適用事業主であること。
(2)交付申請時点で、下記「成果目標」のうち選択する成果目標に設定されている要件を満たしていること。
(3)全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
引用元:厚生労働省『働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)』
▼助成金の内容
画像引用元:厚生労働省『働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)』
企業は成果目標を設定し、その達成度に応じて助成金が支給される仕組みとなっており、計画的な職場環境改善を後押しする点も特徴です。
出典:厚生労働省『働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)』
人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)
従業員が安心して働き続けられる職場環境の整備や人事制度の導入を支援する制度です。採用競争が激化し人材の確保・定着が経営課題となるなか、企業が職場環境を見直し、働きやすい仕組みを整える取り組みを行った際に、費用の一部が助成されます。
▼助成金の内容
画像引用元:厚生労働省『人材確保等支援助成金のご案内 雇用管理制度・雇用環境整備助成コース』
支給対象は、雇用保険の適用事業主であり、職場環境の改善や雇用管理制度の導入を計画的に実施する中小企業が中心です。助成対象期間中に離職率が一定水準以下であることなど、支給に関する要件が定められている点にも注意が必要です。
出典:厚生労働省『人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)』『人材確保等支援助成金のご案内 雇用管理制度・雇用環境整備助成コース』
健康増進・安全への投資支援
企業が人的資本を最大限に活用するためには、従業員の健康維持と安全な職場環境の整備が欠かせません。健康被害の防止や労働災害リスクの低減に向けた投資は、従業員の生産性向上やエンゲージメント強化にもつながります。
受動喫煙防止対策助成金
職場内での受動喫煙を防ぐために行う喫煙室の設置や分煙設備の導入にかかる費用の一部を支援する制度です。受動喫煙による健康被害を防ぐことは、従業員の健康維持だけでなく、企業全体の生産性や職場のイメージ向上にもつながります。
助成対象となる取り組みには、一定の基準を満たす専用喫煙室や指定たばこ専用喫煙室の設置・改修、これに付随する排気・換気設備の導入などが含まれます。
▼助成金の内容
画像引用元:厚生労働省『「受動喫煙防止対策助成金」のご案内』
支給対象となるのは、健康増進法に基づき受動喫煙防止措置が義務づけられる施設(事務所、工場、店舗など)を運営している企業であり、これまでに同様の助成を受けていないことも条件の一つです。また、労働者災害補償保険の適用を受けていること、設置した喫煙室以外を禁煙にしていることなども条件に含まれます。
出典:厚生労働省『受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)』『「受動喫煙防止対策助成金」のご案内』
エイジフレンドリー補助金
高齢労働者が安全かつ快適に働ける職場環境を整備するための設備投資や安全対策を支援する制度です。高齢者の労働参加が進むなか、転倒・転落といった労働災害を防止し、安心して長く働ける環境を整えることは、企業の人材戦略においても重要なテーマとなっています。
助成対象となるのは、滑り止めや手すりの設置、照明や空調などの作業環境改善、腰痛予防機器や作業補助装置の導入などの取り組みです。こうした安全対策は、高齢者のみならずすべての従業員にとって働きやすい職場づくりにもつながります。
また、こちらの記事でもエイジフレンドリーと、活用できる補助金・プログラムについて解説しています。あわせてご確認ください。
▼助成金の内容
画像引用元:厚生労働省『「令和7年度エイジフレンドリー補助金」のご案内』
支給対象や金額については、年度によって変更となる場合があります。最新の情報については、厚生労働省の公式サイト等でご確認ください。
出典:厚生労働省『エイジフレンドリー補助金』『「令和7年度エイジフレンドリー補助金」のご案内』
助成金・補助金活用の流れ
助成金や補助金を活用する際は、以下のようなステップで進めるのが一般的です。基本的な流れを把握しておくことで、申請から受給までをスムーズに進められます。
STEP | 詳細 |
1.情報収集・制度の選定 | 自社の取り組み方針に合致する制度を調査・選定 |
2.計画策定と事前準備 | 申請前に具体的な事業計画や実施内容をまとめ、要件を満たしているか確認 |
3.申請書類の作成・提出 | 所定の様式に従い、申請書や必要書類を提出 |
4.審査・採択 | 書類審査・必要に応じたヒアリングを経て採択が決定 |
5.実施・報告・受給 | 取り組みを実施後、報告書を提出し、助成金・補助金が支給 |
助成金・補助金の申請は、単なる書類提出ではなく、自社の取り組みを制度の目的に沿って整理するプロセスでもあります。計画段階から社内の関係部署と連携し、必要なデータや証憑を事前に準備しておくことで、申請から採択、受給までの流れが格段にスムーズになります。
また、申請後は「採択されたら終わり」ではなく、実施内容の記録や報告体制の整備も重要です。こうした一連の流れを見越してスケジュールを組むことで、助成金・補助金を一時的な支援ではなく、企業の成長戦略に組み込む仕組みとして活用できます。
助成金・補助金活用の注意点
助成金・補助金は、自社の取り組みを後押ししてくれる有効な制度ですが、申請から受給までにはいくつかの重要なポイントがあります。ここを押さえておかないと、「申請したのに対象外だった」「報告書の不備で不支給になった」といったトラブルにつながる可能性もあります。
注意点 | 内容 |
事業開始前の申請 | 対象事業を始める前に申請が必要で、先に実施すると支給対象外になる可能性がある |
募集期間の確認 | 制度によって期間が短く、早期終了する場合もある |
書類の正確性 | 申請・報告書類に不備や不整合があると不採択の原因となる |
不支給・返還リスク | 要件を満たさない場合は支給が取り消され、不正受給は返還や罰則の対象になることがある |
助成金・補助金の申請は、単なる手続きではなく、企業の計画性や管理体制が問われるプロセスです。特に、事業開始前の申請を徹底すること、募集期間や要件を漏れなく確認すること、書類の整合性を保つことは、採択の可否を大きく左右します。
また、万が一条件を満たさなかった場合には支給取り消しや返還が発生する可能性もあるため、常に正確かつ誠実な運用が大切です。こうした基本を押さえておくことで、助成金・補助金を安全かつ効果的に活用できます。
まとめ
この記事では、人的資本経営への波及効果も見込まれる補助金・助成金について以下の内容を解説しました。
人的資本経営における“健康・人材投資”の重要性
人的資本経営における助成金・補助金活用の意義
目的別にみる主な助成金・補助金
助成金・補助金活用の流れ・注意点
国や自治体が提供する助成金・補助金は、人的資本への投資を後押しする有効な手段です。ただし、その内容や支給額は年度によって変更されるほか、制度自体が廃止される場合もあります。したがって、こうした制度を一時的な資金援助として捉えるのではなく、将来的な経営戦略の一環として持続的な人材投資の仕組みを整えることが重要です。
まずは公的支援を活用しながら施策の効果を検証・改善し、自社に適した教育・健康・働き方改革などの人的資本施策を定着させていくことが求められます。助成金の終了後も継続できる体制を視野に入れ、試行錯誤を重ねながら自律的な投資サイクルへ発展させる姿勢こそが、真の人的資本経営につながります。
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