企業が両立支援を行う意義とは。具体的な取り組みや助成金制度について
少子化による人口減少によって多くの企業で人手不足が見られるなか、企業が持続的な成長を続けるには経営の基盤となる従業員の存在が欠かせません。
しかし、心身の病気に対する治療や家族の介護などを理由に、今までどおりの働き方では就業を続けられなくなり、やむを得ず離職してしまう人もいます。
優秀な人材を失うことは、企業にとって大きな損失につながる可能性があります。病気の治療や家族の介護が必要になっても働き続けられる職場を目指すには、企業が両立支援に取り組むことが重要です。
この記事では、企業が両立支援を行う意義や具体的な取り組み、活用できる助成金について解説します。
目次[非表示]
- 1.企業が両立支援を行う意義
- 2.企業に求められる両立支援に関する取り組み
- 2.1.➀相談窓口の設置
- 2.2.②定期的な情報提供
- 2.3.③アンケートや個別面談の実施
- 2.4.④柔軟な働き方ができる制度の導入
- 3.企業が利用できる両立支援に関する助成金
- 4.まとめ
企業が両立支援を行う意義
企業による両立支援は、従業員が自身のキャリアを継続することだけが目的ではありません。人材不足への対策や健康経営®(※)の推進を図るうえでも意義のある取り組みといえます。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
人材不足への対策
少子化によって生産年齢人口の減少が続く日本では、多くの企業が慢性的な人材不足の問題を抱えています。
コロナ禍から経済が立ち直りつつあるなか、人手不足に関連した倒産件数は近年上昇傾向にあり、労働力の確保が深刻な課題となっています。
▼人手不足に関連する倒産件数の推移
画像引用元:厚生労働省『人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて』
しかし、病気の治療や介護の悩みについて職場で相談できる窓口がなかったり、仕事との両立を支援する制度がなかったりすると、やむを得ず離職を選択してしまう従業員もいると考えられます。
企業が両立支援を行い、病気の治療や家族の介護が必要になっても仕事を続けられる環境を整備することは、離職を防止して優秀な人材の定着化を図るうえで重要な取り組みといえます。
出典:厚生労働省『人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて』
健康経営の推進
健康経営とは、経営戦略の一環として従業員の健康づくりに関連する投資を行うことです。従業員の高年齢化が進むなかで、病気の治療や介護と仕事の両立支援に取り組むことは、健康経営に取り組む重要なテーマとなってきています。
▼両立支援が健康経営の推進につながる理由
両立支援の内容 |
健康経営の推進につながる理由 |
病気の治療 |
業務による疾病の悪化や再発を防止する
治療に対する配慮によってワークライフバランスを確保する
就業継続のサポートによる精神的な安心感を醸成する
|
家族の介護 |
介護疲れによる心身の不調を防止する
介護に対する不安や悩みの軽減を図る
|
健康経営を通じて“人”への投資を行い、心身ともに元気に働ける職場環境を実現することは、離職の防止につながるだけでなく、個々のパフォーマンスやエンゲージメントの向上、ひいては企業価値向上に直結すると考えられます。
また、経済産業省からも、経営者に向けて、『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』が発信されています。このガイドラインでは、企業がビジネスケアラーの支援に取り組む意義について述べられています。
なお、病気の治療と仕事との両立支援については、健康経営度調査(※)の必須項目にも含まれています。令和6年度における健康経営度調査は、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
健康経営に関する資料も併せてご確認ください。
※健康経営の取り組み状況と経年での変化を分析するために、専門家による委員会で実施される調査。健康経営銘柄および健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定時にも活用される。
出典:経済産業省『令和6年度健康経営度調査票』『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』
企業に求められる両立支援に関する取り組み
企業が両立支援に取り組む際は、相談窓口の設置や情報提供を行うとともに、個別の事情に合わせて働き方を柔軟に選択できる制度を導入することがポイントです。
➀相談窓口の設置
従業員が抱える治療や介護の悩み・不安にいち早く気づけるように、専門家や人事労務担当者が対応する相談窓口を設置して周知することが重要です。
▼両立に関する相談窓口の例
両立の課題 |
相談窓口 |
病気の治療 |
産業医・産業保健スタッフによる相談窓口
外部の専門医と連携した相談窓口
社内カウンセラーの設置 など
|
家族の介護 |
ファイナンシャルプランナーによる相談窓口
産業ケアマネジャーの設置 など
|
職場に相談窓口がないことで、活用できる公的な保険・休業制度や企業の両立支援を知るきっかけを得られない場合もあります。
相談窓口を設けて上司や管理者の声かけによって活用を促すことで、悩みを相談しやすい職場風土の醸成につながります。
また、社内の窓口だけでなく、病気の治療や介護について相談できる自治体または支援機関の窓口・連絡先についても周知しておくことが欠かせません。
②定期的な情報提供
従業員に対して両立に関する定期的な情報提供を行うことも重要です。
▼両立支援に関する情報提供方法
- 社内研修の実施
- 社内報やリーフレットの配布
- 労働組合を通じた周知活動の実施
- 制度利用に関するガイドブックの作成
- 社内ポータルサイト内での制度関連のコンテンツやQ&Aの掲載 など
介護は、育児と異なり直面する時期を予測することが困難といえます。問題に直面する前から両立支援制度に関する情報提供を行っておくと、就業を継続する選択肢を提示でき、安易に「辞める」「長期休業を取る」といった判断につながることを防げます。
病気の治療に関する両立支援についても、企業の方針・休業制度・職場復帰の手順などの情報を共有しておくとともに、周囲の理解を深められるように社内全体の意識啓発を行うことが求められます。
なお、介護に関する両立支援については、2022年4月の育児・介護休業法改正において個別の周知・意向確認を行うことが義務づけられています。
出典:厚生労働省『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内』
③アンケートや個別面談の実施
個々に最適な情報提供や支援策を展開するためには、定期的にアンケートまたは個別面談を実施して、仕事と病気の治療、介護を両立している従業員の実態を把握することが欠かせません。
経済産業省の健康経営推進検討会が掲載している『第1回健康経営推進検討会 事務局資料②』で、2024年度における「従業員の現在・将来的な介護の実施状況、課題等を把握仕事と介護の実態把握の割合」は41.1%と発表されました。昨年度より27.2%向上しているものの、まだ十分な状態とは言えません。
▼仕事と介護の両立支援の実態
画像引用元:経済産業省『第1回健康経営推進検討会 事務局資料②』
従業員のニーズや両立支援の課題などを踏まえて個別のフォローを実施したり、支援制度の見直しを行ったりするためにも、実態を把握することが重要です。
▼アンケートまたは個別面談で把握すること
両立の課題 |
相談窓口 |
病気の治療 |
病状や治療の状況・経過
業務や就業形態に関する悩み など
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家族の介護 |
介護に従事している・または可能性のある従業員
介護で直面している課題(心身の不調や働き方など)
介護保険制度や両立支援制度の認知・活用状況 など
|
出典:経済産業省『第1回健康経営推進検討会 事務局資料②』
④柔軟な働き方ができる制度の導入
両立支援を必要とする従業員のニーズに応じて、企業では休業制度・勤務制度の面で支援を行うことが求められます。
両立に関する就業上の課題や生活の悩みなどは従業員によって異なるほか、上司・管理者が十分に問題を把握できていない可能性もあります。画一的な制度だけでなく、個別の相談対応を行って事情を踏まえた働き方に調整する必要があります。
▼両立支援に関する休業制度・勤務制度の例
両立に関する制度面の支援 |
制度 |
休業制度 |
時間単位・半日単位の有給休暇
法定外休業(介護休暇、傷病休暇)
所定労働時間の免除 など
|
勤務制度 |
時差出勤制度
短時間勤務制度
在宅勤務制度
復職時の試し出勤制度 など
|
また、従業員が複雑な手続きを踏まずに利用できるように簡易的な申請方法を準備するとともに、周囲の理解を促すためのフォローを行うことも重要です。
企業が利用できる両立支援に関する助成金
企業が両立支援を行うにあたって助成金を活用できる場合があります。
▼両立支援に関する助成金
両立支援の内容 |
助成金 |
概要 |
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仕事と治療の両立 |
団体経由産業保健活動推進助成金 |
事業主団体を通じて中小企業の産業保健活動を支援する制度 |
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障害者介助等助成金 |
障がい者の適切な雇用管理のための特別な措置を助成する制度 |
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職場適応援助者助成金 |
職場適応援助者による障がい者への支援を助成する制度 |
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仕事と介護の両立 |
両立支援等助成金(介護離職防止支援コース) |
介護支援プランの作成による支援や柔軟な就労形態の導入を助成する制度 |
助成金の対象となる企業の規模や申請要件、支給額などは制度によって異なるため、事前に確認しておく必要があります。
なお、ルネサンスでは仕事と治療の両立支援の一環として『がん運動支援プラン』を提供しています。このプランでは、がん専門運動士が一人ひとりの状態にあわせて、がん専門運動士がプログラムを作成し、適切な運動指導で悩みの解決の手助けを行います。プランの詳細はこちらからご確認いただけます。
出典:厚生労働省『団体経由産業保健活動推進助成金のご案内』『障害者介助等助成金』『令和3年度以降「障害者雇用安定助成金」が変わります!』『2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内』
まとめ
この記事では、両立支援制度について以下の内容を解説しました。
- 企業が両立支援を行う意義
- 企業に求められる両立支援に関する取り組み
- 両立支援に関する助成金
病気の治療や介護を行う従業員が就業を継続できるように両立支援を行うことは、継続的な人材の確保と健康経営の実現につながります。
日頃から両立支援に関する情報発信を行うとともに、悩み・不安を相談できる窓口を設置したり、仕事を辞めなくて済むような柔軟な働き方を導入したりすることが重要です。また、業務の継続による病気の悪化・再発や、介護疲れによる心身の不調などを予防するには、日頃から健康保持・増進に取り組むことも欠かせません。
『ルネサンス』では、従業員の健康づくりに役立つさまざまなサービスを用意しております。健康経営優良法人認定制度の要件に沿ったカリキュラムや、従業員一人ひとりのニーズに合わせたプログラムの提供により健康づくりを支援いたします。
詳しくは、こちらの資料をご確認ください。