人的資本投資とは?健康経営との関係と重要性
産業構造の急激な変化や少子高齢化、働き方に対する意識の変化など、企業を取り巻く環境が大きな変化を迎えています。そうしたなかで、人を資源(コスト)として消費するという従来の考え方から、資本と捉えて投資を行う“人的資本投資”が注目されています。
健康経営®(※)においても、人を資源と考えていた従来の“Human Resource(人的資源)”から、価値創造や競争力を強化するための資本と捉える“Human Capital(人的資本)”への転換が経営における戦略テーマの一つとなっています。
企業の人事担当者のなかには、「人的資本投資がなぜ重要なのか」「組織のマインドセットを変えるにはどうすればよいか」などの疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、人的資本投資に取り組む重要性やメリット、戦略的な健康投資について解説します。
なお、健康経営の取り組み方についてはこちらの記事で解説しています。
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目次[非表示]
人的資本投資とは
人的資本投資とは、従業員(人)が企業の価値創造や競争力の源泉である“資本”と捉えて戦略的な投資を行うことです。
人は、これまで“労働力=資源”と捉えられており、損益計算書(P/L)では短期的な利益の押し下げ、貸借対照表(B/S)では短期的な資本効率の押し下げ、財務諸表においては人件費(コスト)として扱われていました。
労働生産性においても、人は“労働投入量”と捉えられており、労働力(資源)としていかに効率的に“管理”するかが目的とされてきました。
しかし、企業における労働生産性の向上に対する考え方にも変化が起きています。従来は、人の“管理”によって業務を適正化して、労働時間などの労働投入量を削減することが一般的でした。
現在では、企業の持続的な発展を目的に、人を“資本”として捉えて、従業員のエンゲージメント(※)などを目指す取り組みへと変わってきています。経営戦略においても、人を資源ではなく資本化させるための戦略投資として“Cost to Capital”の視点が注目されています。
▼Cost to Capitalの考え方
画像引用元:経済産業省『未来を築く、健康経営』
人をコストではなく資本として捉えて、投資によって無形資産となる知恵や異なる知識などを最大限に引き出すことは、企業の競争力と付加価値の向上につながると考えられています。
※企業と従業員が相互に貢献して、成果を出す幸せな関係によって生み出される意欲や働きがいのこと。
出典:経済産業省『未来を築く、健康経営』
人的資本経営と健康経営の関係
人的資本経営の取り組みを推進するために、従業員の健康など「健康経営」は重要な取組みといえます。
人的資本経営は、企業価値向上の為従業員の能力やスキルを最大限に活用し企業に貢献する経営手法です。
一方、健康経営は従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法です。すなわち、
- 人的資本経営は企業価値の向上を目指し、従業員の価値を高めることに注力する。
- 健康経営は、従業員の健康を管理し、将来的な収益性向上につなげる投資として捉え、戦略的に実践する。
健康経営は人的資本経営を進める上で極めて重要な土台を成すものといえるでしょう。
人的資本投資が今後の経営戦略に重要とされる理由
人的資本投資が経営戦略で重要とされる理由の一つに、人的資本情報の開示が挙げられます。企業経営における人的資本の価値が広く知られるようになったことで、2023年3月期決算からは、有価証券報告書の開示項目に人的資本に関する項目が追加されました。
▼有価証券報告書における開示項目の概要
画像引用元:経済産業省『人的資本経営コンソーシアム』
人的資本情報の開示項目が追加された背景には、人に関する注目度が高まるなかで、企業の人的資本に関するさまざまな課題が浮き彫りになっていることが挙げられます。
▼企業の人的資本に関する課題
- 人口減少に伴う国内市場の縮小に向けた新たな事業創造の必要性
- デジタル化に伴うIT人材の能力・スキルの開発や育成
- 脱炭素化をはじめとする新たな事業機会を創出できる、多様かつ専門性のある人材ポートフォリオの構築
- コロナ禍による働き方や働く意識の変化による対応と、リモートワーク環境での生産性向上に向けた取り組み
これまで、人については貸借対照表や損益計算書などの財務情報が重視されていました。しかし、人的資本に関する課題がますます顕在化するに連れて、人に関する“非財務情報”がステークホルダーにとって企業の競争力や将来性を計る指標として重要性が認識されてきています。
企業が持続的な価値の向上を実現するには、“人が競争力の源泉になる”という考え方を持ち、従業員にとって適切な機会や環境を提供して、潜在力を見い出して生かす、また育成することが欠かせません。
自社の従業員に対する経営スタンスである人的資本情報を開示することによって、人的資本への投資に積極的な企業がステークホルダーによる投資や取引の対象として選ばれやすくなると考えられます。
出典:経済産業省『人的資本経営コンソーシアム』『人材版伊藤レポート2.0』
人的資本投資に取り組むメリット
企業が人的資本投資に取り組むことによって、企業と従業員の双方が持続的に成長・発展できる職場環境となり、価値共創を行える関係性の構築につながります。
▼人的資本投資のメリット
- 労働生産性の向上
- ワークエンゲージメントの向上
- 優秀な人材の確保
▼企業と従業員による価値共創
画像引用元:経済産業省『未来を築く、健康経営』
人的資本投資に取り組み、一人ひとりの能力が十分に発揮される組織風土や職場環境を整備することで、労働生産性の向上が期待できます。
また、従業員の健康維持・増進のための投資を行うことは、心身の健康やモチベーションの向上につながります。すると、健康問題に起因する生産性の低下や欠勤を防げるようになり、仕事の質が高まったり、満足のいく成果に貢献したりすることが期待できます。
心身ともに健康で、働きがいを持って能力を発揮できる職場は、ワークエンゲージメントの向上にも結びつくと考えられます。
さらに、人的資本投資に力を入れている企業は、社会的な信用が高まり、魅力的な会社としてイメージが向上すると考えられます。その結果、優秀な従業員の確保につながることが期待できます。
出典:経済産業省『未来を築く、健康経営』
Cost to Capitalの実現に向けた戦略的な健康投資とは
人的資源から人的資本へと転換する“Cost to Capital”を実現するには、従業員の健康維持・増進に向けた戦略的な投資を行うことがカギとなります。
従業員の健康は人的資本の土台となり、心身の不調は労働の質にも影響すると考えられます。
▼心身の不調による労働への影響
- 病気による欠勤(アブセンティーズム)
- 病気や体調不良によるパフォーマンスの低下(プレゼンティーズム)
- 仕事へのやりがいや充実感の低下(ワークエンゲージメント)
このような健康状態は、出勤率や業務効率の低下によって労働生産性の損失を招く可能性があります。
人的資本投資によって労働の質を高めるには、まず従業員の“健康の質”を高めることが重要です。そのためには、ヘルスリテラシーの向上に向けた啓発や、健康維持・増進を図る取り組みが求められます。
▼健康投資の取り組み例
- オフィスや自宅で受講できるオンラインでの健康づくりセミナーの実施
- 健康アプリケーションの導入による歩数や運動状況の可視化とアドバイスの実施
- スポーツクラブ施設との提携
なお、プレゼンティーズム・アブセンティーズム、ワークエンゲージメントについてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
まとめ
この記事では、人的資本投資について以下の内容を解説しました。
- 人的資本投資の考え方
- 人的資本投資が今後の経営戦略に重要とされる理由
- 人的資本投資に取り組むメリット
- Cost to Capitalの実現に向けた戦略的な健康投資
持続的な企業価値の向上を目指すには、人を価値創造や競争力の源泉となる“資本”と捉えて、その能力・スキルが発揮されるように積極的に投資に取り組むことが重要です。
人材を資源として管理していた従来の考え方から、人的資本へと転換する“Cost to Capital”を実現するためには、従業員のパフォーマンスやモチベーションの土台となる心身の健康づくりがカギとなります。
従業員の健康維持・増進に向けた投資を積極的に行うことで、労働生産性やワークエンゲージメントの向上、優秀な従業員の確保に結びつくと期待できます。
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