健康診断の目的とは? 健診制度を正しく理解したうえで健診結果を活用して健康経営を促進するポイント

診察をする医師

近年、業務による過重な負荷やストレスなどによって健康障がいにつながっているケースが見られており、大きな社会問題の一つとなっています。今後、少子高齢化の進行によって労働人口に占める高齢者数が増加すると、従業員の健康や体力に関する経営課題はさらに顕在化すると考えられます。

このような経営上のリスクに対応するには、人材を資本と捉えて従業員の健康維持・増進に向けた投資を戦略的に行う“健康経営®”が重要なカギとなります。健康経営を推進するうえで欠かせないのが“健康診断”です。

企業の人事総務部門や健康管理を行う担当者のなかには、「健康診断は何のために実施するのか」「健診制度を正しく理解したうえで健診結果を活用して健康経営につなげるにはどうすればよいか」などと疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。

この記事では、健康診断の目的と診断結果を活用して健康経営を促進するポイントについて解説します。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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    目次[非表示]

    1. 1.健康診断の目的
    2. 2.健康診断は人的資本投資の一環として捉えることが重要
    3. 3.健康診断の結果を活用して健康経営を促進するポイント
      1. 3.1.①検査項目毎の判定結果を確認する
      2. 3.2.②経年で数値の変化を確認する
      3. 3.3.③診断結果に応じた健康づくりを推進する
      4. 3.4.④評価・改善を行う
    4. 4.まとめ


    健康診断の目的

    健康診断の目的は、事業者が従業員の健康状態を把握して業務に起因する健康障がいを未然に防止するとともに、病気の早期発見・早期治療や再発防止、健康増進への投資に取り組むことです。

    これには、一次予防と二次予防という2つの重要な側面があります。

    • 一次予防・・・健康診断の結果を基に、生活習慣を改善し、病気のリスクを低減する。
    • 二次予防・・・自覚症状が出る前の段階で病気を早期発見し、適切な治療を開始する。

    つまり、健康診断の最大の目的は、従業員の健康状態を維持・改善し、生産性の向上に貢献することです。

    労働安全衛生法』第66条では、業務を原因とする従業員の健康障がいを防ぐために、健康診断を実施することが罰則つきで事業者に定められています。これを“法定健診”と呼び、大きく分けて定期健康診断と特殊健康診断の2つの種類があります。

    ▼法定健診の種類と概要

    種類
    概要
    実施時期
    定期健康診断
    常時使用する従業員に対する健康診断
    1年以内ごとに1回
    特殊健康診断
    特定の有害業務に常時従事する従業員に対する健康診断
    原則として、左記業務への配置換えおよび6ヶ月以内ごとに1回


    ▼労働安全衛生法 第66条

    (健康診断)
    第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
     事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
     事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

    引用元:e-Gov検索『労働安全衛生法


    また、同法第66条の5では、事業者に対して健康診断を実施したあとの措置が定められています。


    ▼労働安全衛生法 第66条の5

    (健康診断実施後の措置)
    第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。

    引用元:e-Gov検索『労働安全衛生法


    事業者は、健康診断の結果を踏まえたうえで従業員一人ひとりが問題なく就業できるかを判断して、必要に応じて就業場所の変更や労働時間短縮などの就業制限を行うことが必要です。

    企業には、“従業員が日々の仕事を終えて、無事に帰れる”ように、安心・安全な職場づくりと心身の健康維持に取り組むことが求められます。また、従業員にも健康診断を受診する義務があります。受診を促すには、健康経営の意義や企業の成長につながるストーリーを共有して、健康づくりに対する意識の向上を図ることが重要といえます。

    健康診断は従業員の安全と健康を守ることはもちろん、それ以上により活力のある従業員を育むために必要な投資となります。したがって、ただ法令を遵守することだけでなく、健康診断結果を基に一人ひとりが健康リテラシーを高めていくための支援も必要となります。


    出典:e-Gov検索『労働安全衛生法』/内閣府『労働安全衛生法に基づく一般健康診断について 』/厚生労働省 職場のあんぜんサイト『特殊健康診断




    健康診断は人的資本投資の一環として捉えることが重要

    健康診断の実施は、労働安全衛生法で定められた義務を果たすだけでなく、人的資本投資の一環として捉えることが重要です。

    人的資本投資とは、価値創造や競争力の源泉である人を“コスト”ではなく“資本”と捉えて戦略的な投資を行うことを指します。健康経営においても人を資源ではなく、代替できない資本と捉えて健康づくりへの戦略的な投資を行うことが必要とされています。


    ▼人的資本投資に重点を置いた健康経営のあり方

    人的資本投資に重点を置いた健康経営のあり方

    画像引用元:経済産業省『未来を築く、健康経営


    従業員一人ひとりが持つ能力を十分に発揮させて労働の質を向上させるには、心身の健康が土台となります。従業員一人ひとりの健康リテラシーを高めて、心身ともに健康で働ける職場環境をつくることは、休業や離職を防ぎつつ持続的な企業の成長につなげるためにも欠かせません。

    さらに上場企業では、有価証券報告書において、人的資本に関する方針や目標の達成状況などの情報を開示することが求められており、健康経営の取り組みは投資家にとっても重要な判断要素と捉えられています。

    健康診断は、従業員の健康状態を把握するうえで必要な取り組みですが、法令遵守のためにただ受診率を100%にすること自体が目的となり、やりっ放しで終わったり、事後措置においても十分に取り組まれていなかったりするケースが見られます。

    企業の成長や新たな付加価値創出を図るには、人を資本と捉えて、健康診断の結果から従業員の健康維持・増進に結びつけるための戦略的な投資を行う必要があります。


    なお、健康経営の認定要件や人的資本投資については、こちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。

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    出典:内閣官房『人的資本可視化指針』/経済産業省『未来を築く、健康経営



    健康診断の結果を活用して健康経営を促進するポイント

    健康経営を促進するには、健康診断の受診にとどまらず、診断結果を踏まえた具体的な行動につなげることがポイントです。


    ①検査項目毎の判定結果を確認する

    健康診断を実施したあとは、受診した医師による検査項目の判定を確認します。

    健康診断を実施する医療施設によって判定の基準が異なる場合もありますが、主に以下の3つの区分で判定されます。


    ▼判定結果の区分

    • 異常なし
    • 要検査
    • 要医療 など


    要検査または要医療などと判定された異常所見者に対しては、再検査や医療機関での受診を勧奨するとともに、必要に応じて事後措置を行います。

    事後措置の内容は、医師と従業員当人からそれぞれ就業環境や作業内容などに関する意見を聞いたうえで決定します。


    ▼就業上の具体的な措置

    • 就業場所の変更
    • 作業の転換
    • 労働時間の短縮 など


    出典:厚生労働省『労働安全衛生法に基づく一般健康診断について


    ②経年で数値の変化を確認する

    従業員が過去に受診した健康診断の結果を踏まえて、各検査項目の数値について経年での変化を比較することも重要です。

    健康診断には、健康状態を把握して病気を早期発見・早期治療することに加えて、病気を予防する役割があります。

    何よりも大切なのは、医師の判定が“異常なし”であっても過去数年間と比較して数値が徐々に悪化している場合には、翌年の健康診断までに生活週間の改善に取り組み、結果を良化させることです。そのためには、従業員自身が健康診断結果について正しい知識を持つことが重要です。


    ③診断結果に応じた健康づくりを推進する

    健康診断の結果を踏まえて、従業員の健康づくりを企業で推進します。

    具体的なアクションにつながるプログラムを実施することで、従業員による健康意識の向上や生活習慣の改善を図れます。


    ▼健康づくりの取り組み例

    取り組み
    対応する診断項目
    ウォーキングのような積極的な運動イベントを社内で実施して、従業員の活動量を増やす
    BMI、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪
    減塩やカリウム摂取などのセミナーを実施することで、従業員の食生活改善につなげる
    収縮期血圧、拡張期血圧、尿たんぱく、クレアチニン、eGFR


    ④評価・改善を行う

    健康診断の結果に応じて健康づくりの取り組みを実施したあとは、その結果を評価する必要があります。

    健康経営の認定を受けるための基礎情報を収集する“健康経営度調査”では、健康維持・増進に関する施策の内容だけでなく、「健康経営の施策に対する効果検証と改善を行っているか」といった点が重視されています。


    ▼【2023年度】健康経営度調査の配点と昨年度からの変更点

    【2023年度】健康経営度調査の配点と昨年度からの変更点


    認定を受けるには、健康診断の受診と取り組みにとどまらず、施策の評価と改善につなげることがポイントとなります。




    まとめ

    この記事では、健康診断について以下の内容を解説しました。


    • 健康診断の目的
    • 人的資本投資の観点による健康診断の考え方と重要性
    • 健康診断の結果を活用して健康経営を促進するポイント


    企業が付加価値を創出して競争力の向上を図るには、持続的な成長の源泉となる人の活躍が欠かせません。法令遵守や健康経営優良法人認定のためだけに取り組むのではなく、改めて人を資本化するための投資として、健康診断に取り組むことが重要です。

    健康診断の結果を踏まえた事後措置やさまざまな健康づくりプログラムを実施することで、病気の早期発見・早期治療や再発予防にとどまらず、健康意識の向上、生活習慣の改善を通したパフォーマンスの向上に結びつけていきましょう。

    そのためには、自社が健康経営で目指す目的や目標を明らかにすることを通して企業の成長を図るストーリーを描き、従業員の信頼や参加意欲を高めていくこともポイントです。

    ルネサンス』では、健康経営をサポートする多様なプログラムや分析を行うサービス『スマートAction』を提供しています。オンライン形式の健康セミナーやプログラムを受講できるほか、受講状況の測定・評価を行い改善へつなげられます。

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