高齢者の嚥下機能が低下する原因とは? 介護施設で行える3つの対策
嚥下(えんげ)とは、口に含んだ食べ物を咀嚼して胃まで運ぶための一連の運動を指します。嚥下機能が低下すると、食欲低下による低栄養・体重減少を招いたり、気管に食べ物が入り誤嚥性肺炎や窒息を引き起こしたりするリスクがあります。
特に高齢者は嚥下機能の低下が生じやすいことから、介護施設では機能の維持・向上を図るための対策が求められます。
介護施設でリハビリやトレーニングを行う担当者のなかには、「高齢者の嚥下機能が低下するのはなぜなのか」「嚥下機能の低下を防ぐにはどのような対策を行えばよいか」などお悩みの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、高齢者の嚥下機能が低下する原因と、嚥下機能の低下を防ぐ対策について解説します。
出典:厚生労働省『高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査』
目次[非表示]
- 1.高齢者の嚥下機能が低下する原因
- 2.嚥下機能を評価するスクリーニングテスト
- 3.嚥下機能を低下させないための対策
- 3.1.①口腔衛生のケアを行う
- 3.2.②嚥下に用いる筋肉を鍛える
- 3.3.③姿勢を改善する
- 4.まとめ
高齢者の嚥下機能が低下する原因
嚥下機能が低下する原因は、大きく機能的原因・器質的原因・心理的原因の3種類に分けられます。
機能的原因
機能的原因とは、嚥下に用いる器官を動かすための筋肉や神経に障がいを引き起こして、うまく噛んだり飲み込んだりできなくなることを指します。
▼機能的原因の例
- 加齢による筋力低下
- 脳血管疾患 など
高齢者の場合は、脳血管疾患による後遺症や認知症の進行などによって嚥下の働きが弱まり、誤嚥が発生するリスクがあります。
出典:厚生労働省『高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査』/内閣府『令和4年版高齢社会白書』
器質的原因
器質的原因とは、嚥下に用いる器官そのものに障がいが発生することを指します。
▼器質的原因の例
- 歯の喪失
- 口内炎
- 咽頭炎
- 扁桃炎
- 口腔がん
- 咽頭がん
- 食道がん など
厚生労働省の『令和4年 歯科疾患実態調査結果の概要』によると、年齢を重ねるほど歯を喪失している割合は多くなり、喪失した本数の平均値も増加しています。
また、高齢者が歯を喪失した場合には義歯を使用する場合がありますが、義歯が原因で口内炎を引き起こすケースも見られています。
さらに、厚生労働省の『がん対策推進基本計画』によると、2019年度において新たに罹患したがん患者の75%が65歳以上の高齢者となっており、嚥下に用いる器官の障がいによってうまく咀嚼や飲み込みができなくなる場合があります。
出典:厚生労働省『高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査』『B.医療関係者の皆様へ』『令和4年 歯科疾患実態調査結果の概要』『がん対策推進基本計画』
心理的原因
心理的原因とは、心因性の障がいによって食べることへの認識や食べる意欲をなくしてしまうことを指します。
▼心理的原因の例
- 認知症で食べ物を認識できなくなる
- うつ病で食べる意欲や空腹感がなくなる など
消費者庁の『令和5年版 消費者白書』によると、65歳以上における認知症患者の割合は年々増加傾向にあると報告されています。
認知症になると、食事をはじめとする日常生活動作がうまくできなくなり、体重の減少、栄養状態の悪化などにつながる可能性があります。介護施設においては、認知症予防の一環として嚥下機能の維持・向上に取り組むことが必要です。
出典:厚生労働省『高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査』『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』/消費者庁『令和5年版 消費者白書』
嚥下機能を評価するスクリーニングテスト
嚥下機能を簡単に評価する方法として、スクリーニングテストが用いられます。スクリーニングテストでは、唾液・水・やわらかい食べ物などを飲み込む際の様子から嚥下機能を確認します。詳しくはこちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
嚥下機能を低下させないための対策
食べることは、高齢者が最期まで自立した豊かな生活を送るために欠かせないことといえます。嚥下機能を低下させないためには、口腔内を衛生的に保つケアを行うとともに、嚥下に用いる筋力のトレーニングを行うことが重要です。
①口腔衛生のケアを行う
歯の喪失や口内炎などを予防して嚥下機能の低下を防ぐためには、口腔衛生のケアを行うことが重要です。
▼口腔ケアの内容
- 定期的な歯石除去
- 定期的な口腔検査の実施
- 毎食後や就寝前のブラッシング
- うがい薬の使用 など
口腔内の衛生環境を保ち咀嚼能力の改善を図ることで、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクを低減できます。
ただし、高齢者の場合は歯の喪失や歯周病の進行によって口腔内の状態が複雑となり、歯のブラッシングが難しい場合があります。介護施設では、一人ひとりの口腔内状況を観察してきめ細かなケアを行うことが必要です。
出典:厚生労働省『歯の健康』『B.医療関係者の皆様へ』『高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査』
②嚥下に用いる筋肉を鍛える
嚥下に用いる筋肉を鍛えて、嚥下機能の維持・向上を図る方法があります。口腔内だけでなく、摂食から嚥下を行う5つの段階で使用する筋肉を鍛えることがポイントです。
▼摂食・嚥下の5つの段階
段階 |
概要 |
第1期(先行期) |
食べ物を口に入れるまでの段階 |
第2期(準備期) |
食べ物を口に入れて咀嚼して食塊にする段階 |
第3期(口腔期) |
咀嚼した食塊を口腔から咽頭に送り込む段階 |
第4期(咽頭期) |
食塊が咽頭を通過する段階 |
第5期(食道期) |
食塊が食道から胃に移送される段階 |
また、高齢者によって嚥下機能の働きが異なるため、どの段階に問題点があるかを明らかにしたうえで、使用する筋肉にアプローチする必要があります。
▼第2期から第4期に起こる問題点とアプローチする筋肉
期 |
問題点 |
筋肉 |
第2期(準備期) |
食べこぼし |
口輪筋、頬筋 |
咬合力の低下 |
咬筋、側頭筋 |
|
第3期(口腔期) |
食塊の残留 |
外舌筋、内舌筋 |
第4期(咽頭期) |
鼻腔への流入 |
口蓋筋 |
気道への流入 |
舌骨上筋群、舌骨下筋群、咽頭収縮筋 |
嚥下に用いる筋力を鍛える方法には、口腔周囲の体操や摂食訓練のほか、電気刺激療法(EMS)によるトレーニングを実施する方法もあります。
電気刺激療法(EMS)については、電気刺激で筋肉を活性化することで嚥下機能が改善した効果が学会にて報告されています。
なお、ルネサンスによる電気刺激療法(EMS)を用いたプログラムは、こちらのページで紹介しております。併せてご確認ください。
また、嚥下機能の訓練についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
出典:厚生労働省『摂食・嚥下機能と運動機能、すなわち日常の活動性、ADL』『高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査』
③姿勢を改善する
嚥下機能の低下を防ぐには、姿勢を改善することも重要です。
骨盤後傾や体幹屈曲位の姿勢では、嚥下に用いる筋肉が使いにくくなり誤嚥が生じやすくなります。
▼姿勢と嚥下筋の関係
姿勢の改善を図ることで、嚥下に必要な筋肉を正しく使用できるようになり、誤嚥の防止につながります。
なお、不良姿勢と嚥下機能の関連性については、こちらの資料をご確認ください。
まとめ
この記事では、高齢者の嚥下機能について以下の内容を解説しました。
- 高齢者の嚥下機能が低下する原因
- 嚥下機能を低下させないための対策
嚥下機能が低下する原因には、嚥下に必要な筋力の低下や嚥下に用いる器官の障がい、認知症の進行などが挙げられます。
高齢者が最期まで自分の口から食べられるようにする支援するには、嚥下機能の維持・向上に取り組むことが重要です。介護施設においては、口腔内の衛生環境を保つための日常的なケアを行うとともに、嚥下に使用する筋を鍛えたり、姿勢の改善を図ったりすることがポイントです。
『ルネサンス』では、口腔機能加算の取得を支援するサービス『R-Smart』を提供しています。口腔嚥下筋肉のトレーニングや姿勢改善に特化したグループプログラムと、EMSによる個別のリハビリによって嚥下機能の維持・向上を目指せます。
詳しくは、こちらの資料をご確認ください。