嚥下機能の訓練はパタカラ体操だけじゃない? 理学療法士が考案したリハビリ方法とは
嚥下(えんげ)とは、口に含んだ食べ物を咀嚼(そしゃく)して胃まで運ぶための一連の運動のことです。安全で楽しく、美味しい食生活を営むうえで欠かせない機能の一つといえます。
介護施設において、嚥下を含む口腔機能の維持・向上を図ることは、利用者の自立した生活の維持や生活意欲の向上につなげるための重要な取り組みとなります。
この嚥下機能に関するリハビリテーション(以下、リハビリ)の手法の一つに、口腔周囲の筋力向上を図る“パタカラ体操”があります。しかし、「パタカラ体操だけではあまり効果が出なかった」「嚥下機能の維持・向上を図るためのリハビリ方法はほかにないのか」などと悩まれている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、嚥下機能の重要性をはじめ、介護現場における嚥下機能の維持・向上に関する課題、理学療法士が考案したリハビリのプログラムについて解説します。
この記事に関連するおすすめのサービス・お役立ち情報はこちら
目次[非表示]
パタカラ体操とは?
パタカラ体操とは介護や医療の現場でよく使われ、「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発音するお口の代表的な体操の一つです。
加齢に伴い筋肉が弱ってくると、お口の周りの筋肉や舌の動きも悪くなります。そこで口・舌を鍛えることで食べる・飲み込む機能の向上がはかれる体操です。
嚥下機能の重要性
嚥下機能は、人が自立した豊かな生活を送るうえでの基本動作の一つとなる、”食べること”に関する機能のことです。嚥下機能が低下すると、以下のリスクにつながるおそれがあります。
▼嚥下機能が低下することによるリスク
- 食欲が衰えて低栄養や体重の減少を招く
- 気管に食べ物が入り込む“誤嚥(ごえん)”が生じやすくなり、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や窒息事故などの生命に関わる事態に至る可能性がある
嚥下機能が低下する主な原因には、加齢による筋力の低下や歯がなくて噛めないこと、病気による障がい、認知症の進行などが挙げられます。
「食べ物を飲み込みにくい」「むせてしまう」などの嚥下機能が低下している兆候が見られる場合には、放置せずに予防を始めることが重要です。
また、高齢化が進む日本では、介護や医療の現場において「最期まで自分の口から食べる」ことを目指して、高齢者の嚥下機能の低下を防ぐための取り組みが推進されています。
オーラルフレイルの観点から
フレイル(虚弱:きょじゃく)は、「健康」と「介護が必要となる状態」の間の期間、介護が必要とまではいかないが、要介護状態となるリスクが高くなった状態をいいます。
ここには、口を介して起こる体の衰えを表す「オーラルフレイル」も含まれます。
オーラルフレイルは、フレイルと同様に早期に気付き適切な対応を行うことによってお口の機能低下を緩やかにし、失われつつある口腔機能を回復させる可能性があることが分かっています。
健やかで自立した暮らしを長く保つためには、オーラルフレイルに早く気づき、予防や改善に努力することが重要です。
介護現場における嚥下機能のリハビリに関する課題
介護現場では、嚥下機能の維持・向上を図るためのリハビリが重要な取り組みとされていますが、以下の課題によって十分に実施できていないケースも少なくありません。
課題①言語聴覚士が介護現場に不足している
1つ目の課題には、言語聴覚士が現場に不足しており、嚥下機能に関する専門的な知見から利用者へのサポートができていないことが挙げられます。
言語聴覚士は、言葉・聴覚・発声・発音・認知などに関する専門家です。コミュニケーションだけでなく、摂食・嚥下についても専門範囲に含まれています。
毎年行われる言語聴覚士の国家試験では、受験者数や資格保有者数が理学療法士・作業療法士よりも少なく、需要に対して人員が不足しやすくなっています。
▼言語聴覚士・理学療法士・作業療法士の国家試験結果(2023年2月)
資格 |
受験者数 |
合格者数 |
合格率 |
言語聴覚士 |
2,515人 |
1,696人 |
67.4% |
理学療法士 |
12,948人 |
11,312人 |
87.4% |
作業療法士 |
5,719人 |
4,793人 |
83.8% |
また、言語聴覚士は介護現場のほかに医療施設・保険施設・教育機関などにも需要があるため、資格保有者を介護現場で確保するのが難しい場合もあります。
出典:厚生労働省『第25回言語聴覚士国家試験の合格発表について』『第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について』
課題②プログラムが口腔のケア・体操に偏っている
2つ目の課題は、介護現場で嚥下機能に関するプログラムの範囲が足りておらず、口腔内のケア・体操のみに偏っていることです。
介護現場では、口腔嚥下の機能よりも“口腔衛生”の機能に関するリハビリを中心に行うことが多くなっています。そのため、嚥下機能が低下していても気づかないケースも多く、誤嚥性肺炎を発症してからようやく病院で嚥下機能へのアプローチが行われている現状があります。
介護現場で広く浸透している口腔衛生の機能に関するプログラムには、以下が挙げられます。
▼広く浸透している嚥下機能の改善プログラム
- 口腔衛生のケア
- 口腔周囲の筋を鍛える体操
有名なパタカラ体操も、口腔周囲の筋を鍛える体操の一種です。しかし、嚥下に関わる筋は口腔周囲だけではありません。摂食・嚥下の過程は、以下の5つの段階に分割して考えられています。
▼摂食・嚥下の5つの段階
段階 |
詳細 |
1.先行期 |
食べ物を口に入れるまでの段階 |
2.準備期 |
食べ物を口に入れて咀嚼して食塊にする段階 |
3.口腔期 |
咀嚼した食塊を口腔から咽頭に送り込む段階 |
4.咽頭期 |
食塊が咽頭を通過する段階 |
5.食道期 |
食塊が食道から胃に移送される段階 |
嚥下機能の維持・向上を図るには、口腔期に使用する筋肉だけでなく、ほか段階で使用する筋肉も訓練する必要があります。
ルネサンスのプログラムで嚥下機能への効果的なリハビリを実現
介護施設における嚥下機能に関するリハビリの課題を踏まえると、専門家となる言語聴覚士がいなくても行える新たな訓練法・プログラムが求められます。
ルネサンスでは、口腔機能改善をサポートするサービス『R-Smart』を提供しています。R-smartは、口腔嚥下筋肉と姿勢改善プログラムを行うグループプログラムと、EMSによるリハビリを行う個別プログラムの2つを用意しています。
▼グループプログラム
▼EMSリハビリプログラム
近年では、姿勢と嚥下の関係性が深いことが明らかになっています。骨盤後傾や体幹屈曲位の姿勢では、嚥下に関わる筋肉が使いづらい状態となり、嚥下を行いづらくなります。
嚥下に関わる筋肉と姿勢を評価して、嚥下を妨げている原因を明らかにしたうえで、グループプログラムでは口腔嚥下筋肉の筋膜リリースや姿勢改善のプログラムを実施することで、嚥下機能の改善を図れます。
また、EMSリハビリは、口腔周辺の筋肉に中周波~高周波の電流で刺激を与えるトレーニングです。このプログラムについては学会へ報告済みとなり、その効果が立証されています。利用者さまのなかには、「むせなくなった」「食べる量が増えた」などの嬉しい声も見られています。
不良姿勢と嚥下機能の関連性や実際のプログラムついてはこちらの資料をご確認ください。
なお、口腔機能向上加算の算定要件についてはこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
まとめ
この記事では、嚥下機能のリハビリについて以下の内容を解説しました。
- 嚥下機能の重要性
- 介護現場における嚥下機能のリハビリに関する課題
- 嚥下機能への効果的なリハビリを実現するルネサンスのプログラム
介護現場で嚥下機能の維持・向上を図るリハビリを行うことは、利用者さまの食べることの楽しみを創出して、豊かな生活を送るために重要な取り組みといえます。
しかし、言語聴覚士が不足していたり、口腔衛生に関するプログラムに偏っていたりして、十分に嚥下機能のリハビリが行われていない現状があります。
『ルネサンス』では、口腔機能加算の取得を支援するサービス『R-Smart』を提供しています。口腔衛生の機能に加えて、嚥下機能に特化したプログラムを用意しており、利用者さま一人ひとりの問題に適したアプローチを実現します。
詳しいサービスの内容は、こちらをご確認ください。