【高齢者の健康課題】低栄養のチェック方法と簡単に行えるアドバイスとは
高齢者は、加齢に伴う生理的・社会的・経済的な問題から、全身の栄養状態に影響を与えることがあります。そのため、健康的に生きるために必要な栄養素が不足している“低栄養”に陥りやすいといわれています。実際に、要介護高齢者のうち低栄養とされる人の割合は、約15~20%とされています。
健康寿命の延伸や介護予防のためには、栄養バランスの取れた食生活をはじめ、身体活動・運動、口腔の健康維持などが重要な要素として挙げられています。
通所型リハビリ施設では、機能訓練や口腔ケアに関して力を入れている施設は見られますが、栄養に関しては十分な取組みがなされていないケースもあるのではないでしょうか。
この記事では、栄養の重要性をはじめ、低栄養のチェック方法、リハビリ施設で行えるアドバイスなどについて解説します。
出典:厚生労働省『3 高齢者』『健康寿命の延伸につながる食育の推進』
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目次[非表示]
- 1.栄養の重要性と低栄養のリスク
- 2.低栄養をチェックする3つの方法
- 3.リハビリ施設で行える栄養のアドバイス方法
- 3.1.①手ばかり栄養法で必要量を伝える
- 3.2.②手料理のポイントを教える
- 3.3.③おやつを取り入れる
- 4.口腔・栄養スクリーニング加算の取得方法
- 5.まとめ
栄養の重要性と低栄養のリスク
心身の健康を保つためには、バランスの取れた食事で必要な栄養素を摂ることが欠かせません。
高齢者は、加齢による食欲低下や独居、介護力不足、認知機能障がい、疾病などの原因によって、低栄養に陥りやすいとされています。低栄養の状態になると、活力や筋力または身体機能の低下を招き、食欲低下でさらなる栄養不足につながるといった悪循環に陥るリスクがあります。
▼低栄養がもたらす悪循環
画像引用元:消費者庁『栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防』
このような低栄養が引き金となり、加齢に伴って筋力・筋肉量が減少する“サルコペニア”や、心身の働きが弱くなる“フレイル”につながる可能性があります。
また、血液中のたんぱく質が減少することで、免疫機能が低下して、風邪をはじめとする感染症を引き起こしやすくなります。さらには、認知機能の低下、創傷治癒遅延となり、寝たきり状態や死亡に至ることもあります。
これらのリスクを予防するには、体に必要なエネルギーや筋肉の素になる栄養を食事から摂取することが必要です。特に骨格筋量・筋力・身体機能を維持する栄養素として、たんぱく質を十分に摂取することが重要です。
出典:厚生労働省『食べて元気にフレイル予防』『3 高齢者』/消費者庁『栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防』/e-ヘルスネット『低栄養 / PEM(ていえいよう)』『たんぱく質(たんぱくしつ)』
低栄養をチェックする3つの方法
通所型リハビリ施設や介護施設などでは、高齢者の健康管理・リスク管理のために、低栄養になっていないか定期的にチェックすることが大切です。
低栄養をチェックする方法として、以下の3つが挙げられます。
①体重減少
体重減少の状態によって低栄養の状態をチェックする方法があります。
体重は体格や年齢などによって異なりますが、性別・年齢別の平均体重は以下のとおりです。
▼性別・年齢別の平均体重
画像引用元:消費者庁『栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防』
体重が減少している場合には、十分な栄養が摂れていない可能性があるため、注意が必要です。低栄養のリスクがあると考えられる体重減少率は、以下のとおりです。
▼低栄養のリスクがある体重減少率
測定期間 |
体重減少率 |
具体例 |
1ヶ月 |
3~5%未満 |
60kg→(1ヶ月後)58.2㎏(3%減) |
3ヶ月 |
3~7.5%未満 |
60kg→(3ヶ月後)57.㎏(5%減) |
6ヶ月 |
3~10%未満 |
60kg→(6ヶ月後)55.2㎏(8%減) |
厚生労働省『栄養改善について』を基に作成
出典:消費者庁『栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防』/厚生労働省『栄養改善について』
②BMI
低栄養をチェックする指標として、BMI(体格指数)も挙げられます。BMIは、肥満度の判定に用いられる評価指標の一つで、以下の計算式で算出されます。
▼BMIの計算式
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m) |
BMIの数値が18.5未満になる場合には、低栄養の可能性があります。60歳代と70歳以上のBMIの目安は、以下のとおりです。
▼BMIの目安
画像引用元:消費者庁『栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防』
ただし、この値を下回っていても、必ずしも低栄養であるとは限らないため、あくまで目安としてお考えください。
出典:消費者庁『栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防』/厚生労働省『栄養改善について』
③血液検査
血液検査によって栄養状態をチェックする方法もあります。低栄養のリスクを判断する目安となる数値は、以下のとおりです。
▼低栄養のリスクを判断する目安
血清アルブミン値:3.5g/dl以下 |
血清アルブミン(Alb)とは、血液中に含まれるたんぱく質の一種です。一般的に、健康診断を受けた際には、肝機能の欄に血清アルブミン(Alb)の数値が記載されています。
出典:厚生労働省『栄養改善について』
リハビリ施設で行える栄養のアドバイス方法
通所型リハビリ施設で低栄養の利用者さまを見かけたとき、「具体的にどのようにアドバイスをすればよいのか分からない」というスタッフの方も多いのではないでしょうか。
ここからは、栄養に関する3つのアドバイス方法についてご紹介します。
①手ばかり栄養法で必要量を伝える
手ばかり栄養法とは、自分の手のひらを基準にして、1日に食べる食材の目標量を量る方法です。たとえば、手のひら1枚に乗るサイズの主菜、こぶし1つ分の果物など、手のサイズや厚みを基に食材を量ることで、1日に必要な栄養素を摂取できます。
高齢者が1日に必要なたんぱく質は、体重(kg)に1〜1.2gを掛けた量とされています。仮に体重が50kgの人は、1日50~60gを摂取する必要があります。1日3食摂取する場合、1食当たり約20gのたんぱく質量が必要です。
この量を手ばかり栄養法を用いて計算する場合、手のひら1枚=たんぱく質15gが目安となります。たんぱく質が含まれた魚や豆腐、肉、卵などを手のひらに乗るサイズの量だけ食べることで、必要な栄養素を意識して摂れるようになります。
そのほかの食材の目安は以下のとおりです。
▼1日の栄養素の目安
画像引用元:全国健康保険協会 岡山支部『1日の目安って? 手ばかりをマスターしよう!』
出典:全国健康保険協会 岡山支部『1日の目安って? 手ばかりをマスターしよう!』
②手料理のポイントを教える
たんぱく質を効率的に摂れるような手料理のポイントを教えることも有効です。
たんぱく質を多く含む食材を2種類組み合わせて食べたり、たんぱく質以外の栄養素も豊富に含まれている卵料理を取り入れたりします。具体的な食べ方・料理の仕方を教えることで、自宅で実践してもらいやすくなります。
具体的なポイントには以下が挙げられます。
▼手料理のポイント
ポイント |
具体例 |
たんぱく質を含む食品を2種類組み合わせる |
|
卵を取り入れる |
ゆで卵や冷凍の卵焼きを作り置きする |
缶詰を活用する (たんぱく質が豊富) |
|
③おやつを取り入れる
「食欲がない」「料理や買い物が大変」といった理由で1日2食になっている場合、必要な栄養素を摂りきれていなかったり、栄養が偏ったりしやすくなります。
このような場合には、昼食・夕食に影響が出ない程度に、おやつを取り入れることも一つの方法です。食べる時間と量に気をつけながら、必要な栄養素が摂れるおやつを選ぶように心がけてもらいます。
▼目的別おやつ選びのポイント
目的 |
具体例 |
たんぱく質 |
ヨーグルト、ゆで卵、魚肉ソーセージ、プリン |
エネルギー |
バナナ、カステラ、おにぎり |
水分+α |
牛乳、ココア |
口腔・栄養スクリーニング加算の取得方法
料理や食品選びによる栄養も大切ですが、食事を通して栄養摂取を円滑に行うためには、口腔嚥下機能が維持されている必要があります。
通所型・居住型の介護サービスにおいて、介護職員等による口腔スクリーニングを実施する場合には、要件を満たすことで加算を算定することが可能です。
口腔スクリーニングを評価する加算については、栄養スクリーニング加算による取組み・評価と一体的に行うことが求められます。
単位数と算定要件は、以下のとおりです。
▼単位数
画像引用元:厚生労働省『令和3年度介護報酬改定について』
▼算定要件
画像引用元:厚生労働省『令和3年度介護報酬改定について』
なお、口腔・栄養スクリーニング加算の算定にあたっては、利用者についてBMIや体重減少率などの一定の項目を確認して、介護支援専門員に対して情報提供をする必要があります。
詳しくは、こちらの記事で解説しています。
出典:厚生労働省『令和3年度介護報酬改定について』
まとめ
この記事では、高齢者の低栄養について以下の内容を解説しました。
- 栄養の重要性と低栄養のリスク
- 低栄養をチェックする方法
- リハビリ施設で行える栄養のアドバイス方法
- 口腔・栄養スクリーニング加算の取得方法
高齢者の低栄養は、サルコペニアやフレイルの原因となり、要介護状態、死亡のリスクにつながります。身体機能・生活機能を維持するためには、たんぱく質が含まれる食品を多く取り入れて、体に必要なエネルギーと筋肉の素になる栄養素を摂取することが大切です。
また、通所リハビリ施設では、利用者が低栄養になっていないか確認するために、定期的に体重測定やBMI測定、血液検査を実施することが重要です。
施設内で簡単にできる栄養のアドバイスとしては、手ばかり栄養法で必要量を伝える、手料理のポイントを教える、おやつを取り入れるなどが挙げられます。
利用者の健康維持・増進に向けて、栄養や口腔に関する取組みに力を入れてみてはいかがでしょうか。
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