社員の健康管理はなぜ重要? 2つの視点と具体的な取り組み
近年、業務の過重な負荷による過労死やメンタルヘルス不調による休業などが、多くの職場にとって重要な問題となっています。
少子高齢化が進み、人手不足や高齢労働者数の増加が見込まれているなか、今後はさらに社員の健康に関する経営課題が顕在化していくと考えられます。
企業においては、法令遵守の観点だけでなく、人材を資本として捉えて戦略的に投資する健康経営®(※)を通して、社員の健康維持・増進と良好な職場環境づくりに取り組むことも求められています。
企業の人事・総務担当者のなかには「社員の健康管理がなぜ重要なのか」「健康管理ためにどのような施策を取り入れるとよいのか」などと対応に悩まれている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、社員の健康管理が重要とされる理由や具体的な施策について解説します。
なお、健康経営についてはこちらの記事で解説しています。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
目次[非表示]
- 1.社員の健康管理が重要とされる理由
- 2.健康管理を実践するための2つの視点
- 3.健康管理の具体的な取り組み
- 3.1.個別の課題に沿った施策を行う
- 3.2.健康セミナーを実施する
- 3.3.職場で運動する機会を確保する
- 4.まとめ
社員の健康管理が重要とされる理由
社員の健康は、人という資本が持つ能力と働く意欲を最大限に発揮させて、企業価値の向上や持続的な事業活動を継続するための土台として、今後一層に重要となります。
少子高齢化による従業員の高年齢化と人手不足が同時に進む今、社員の健康問題による休業や離職は、企業にとって貴重な労働力の損失につながるだけではなく、企業が健康管理責任が問われることで、訴訟に発展するおそれもあります。
社員の疲労やストレスが蓄積したり、健康問題が生じたりする状態では、仕事でのパフォーマンス低下につながることも考えられます。事業を継続させて企業の成長を図るには、社員一人ひとりの健康面に配慮して、活力にあふれながら能力を発揮できる環境づくりが必要です。
また、人生100年時代が到来して高齢労働者数が増加すると予測されるなか、高齢になっても長く活躍し続ける職場環境づくりも求められています。
内閣府の『令和4年版高齢社会白書(全体版)』によると、高齢期の就業状況に関する調査で高齢者の働く意欲が高いことが分かっています。
▼高齢者の働く意欲に関する調査結果
画像引用元:内閣府『令和4年版高齢社会白書(全体版)1 就業・所得』
しかし、労働災害による死傷者のうち高齢者が占める割合は増加しており、男性では30代の約2倍、女性では30代の約4倍にも達しています。
▼年齢別・男女別の労働災害発生率
画像引用元:厚生労働省『令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況』
高齢者の労働災害発生率が高くなる一因には、壮年者に比べて身体機能の低下が見られることが考えられます。社員の高年齢化が当たり前に進む状況においては、既に、義務までは至らなくても、国は高年齢者雇用安定法の改正等を通じて、70歳までの就業機会確保が企業に求められるようになってきています。社員が長くいきいきと働いてもらうためには、企業が社員の健康管理を行い、仕事を通じて、健康を害することがないように、働き方や労働環境の整備に取り組むとともに、早いうちから身体機能の維持向上等の積極的な健康づくりへの投資を図ることが重要です。
出典:内閣府『令和4年版高齢社会白書(全体版)1 就業・所得』/厚生労働省『令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況』
健康管理を実践するための2つの視点
社員の健康管理に取り組むにあたっては、法令遵守の視点と経営戦略としての視点の両方から考える必要があります。
①法令遵守の視点
社員の健康管理を行う大きな視点に、労働安全衛生法や労働契約法等の法令遵守があります。
労働安全衛生法とは、職場における労働災害の予防に取り組み、労働者の安全と健康を確保するための法律です。企業には、労働者の危険な作業や健康障がいなどを防止するためのさまざまな取り組みが義務づけられています。
▼労働安全衛生法に基づく健康管理の取り組み例
- 定期健康診断
- ストレスチェック制度
- 長時間労働者への医師による面接指導
また、『労働契約法』第5条では、労働者に対する安全配慮義務が定められています。安全配慮義務とは、業務において労働者におよぶ危険や健康障がいを事前に発見して、防止策を講じる義務のことです。
▼労働契約法第5条
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用元:e-Gov法令検索『労働契約法』
このように労働安全衛生法や労働契約法等においては、企業の義務として、労働者の心身の安全を確保する健康管理が求められます。
出典:厚生労働省『安全・衛生』『長時間労働者への医師による面接指導制度について』『労働安全衛生法に基づく定期健康診断』『ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて』/内閣府『労働安全衛生法に基づく一般健康診断について』/e-Gov法令検索『労働契約法』
②経営戦略の視点
2つ目は、経営戦略の視点です。
健康管理は、法律遵守のための取り組みだけでなく、経営戦略の一環として社員の健康維持・増進に取り組む“健康経営”の視点からも重要といえます。
従来、企業は、自社の商品やサービスの質を保証するために、作業管理や作業環境管理などの労働安全衛生への投資を通じて、「労働の質」を担保してきました。しかし、社員の高年齢化とも相まって、近年、労働災害や品質事故の多くは、「人災」や「人為的ミス」などのヒューマンエラーが中心となってきています。つまり、社員の「健康の質」を高めなければ、「労働の質」はもとより、「商品やサービスの品質」が保証できなくなってきているのです。
▼心身の健康を基盤とした人的資本投資の連鎖構造
画像引用元:経済産業省『未来を築く、健康経営』
少子高齢化や人生100年時代が到来するなか、働き方、個人のキャリア観などが多様化しており、企業と社員を取り巻く環境が変化しています。
このような変化に伴い、企業の人材戦略についても見直す必要が出てきており、人材を資源ではなく資本と捉えて戦略的に投資する“人的資本投資”へと転換が求められています。心身の健康は、資本としての人材の価値を形成する基盤となります。
健康経営への投資を通して社員の心身の健康維持・増進に取り組むことによって、企業にもよい影響をもたらすと期待できます。
▼社員の健康管理がもたらすよい影響
- 生産性の向上
- 社員のエンゲージメント向上
- 離職率の低下
- 企業のイメージアップ
心身が健康な状態になると、集中力が高まり、社員が持つ能力・スキルを発揮しやすい状態になります。健康の質が高まれば、労働の質も高まり、結果として生産性の向上にもつながります。
また、心身ともに健康でパフォーマンスを最大限に発揮できる職場環境は、仕事に対するやりがいや意欲が醸成されて、エンゲージメントの向上にも結びつくと考えられます。心身の不調ややりがいの喪失を原因とする離職の防止にも貢献します。
さらに、社員の健康を大切にしている企業として社会的なイメージアップを図れれば、取引先企業や投資家、金融機関などの評価にも結びつくと考えられます。
出典:経済産業省『未来を築く、健康経営』
健康管理の具体的な取り組み
健康管理においては、労働安全衛生法等で定められた健康診断の実施と、結果に基づく事後措置の対応が何よりも重要です。特に、結果に問題がある社員に対しては、医師等の意見を勘案し、必要があるときはその社員の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じる必要があります。
また、心身の健康づくりには、健康診断の結果を含めて、運動や食生活、休養(睡眠)などに対する正しい知識を身につけるとともに、社員自身の意識を高め、行動を実践していくための支援が欠かせません。
企業が社員の健康管理に取り組む際は、社員自身が、自分の健康は自分で守り育むことができるよう、ヘルスリテラシーを高めて生活習慣をよりよい方向へと改善するきっかけを提供することがポイントです。
個別の課題に沿った施策を行う
社員の健康管理に取り組むには、一人ひとりの健康課題を把握したうえで、課題に応じた施策を講じることが重要です。
健康課題を把握するために収集する情報には、以下が挙げられます。
▼社員の健康課題を把握するための情報
- 定期健康診断の結果(有所見者)
- ストレスチェックの結果(高ストレス者)
- 長時間労働の状況
- 休暇取得の状況
- エンゲージメントに関するアンケート調査
定期健康診断またはストレスチェックで所見が見られる社員や、長時間労働が見られる社員に個別面談を実施したり、産業医または外部の専門家による健康指導を行ったりする方法が考えられます。
また、社員が自身の健康状態を把握して自己管理を促すために、食事内容や運動状況、睡眠時間等を記録して管理できるツールを活用することも有効です。
健康セミナーを実施する
健康づくりへの関心喚起と行動変容を後押しするために、社員向けの健康セミナーを開催する方法があります。
▼健康セミナーのプログラム例
- 禁煙サポートセミナー
- 睡眠改善セミナー
- 食生活改善セミナー
- 運動セミナー
- メンタルセミナー
- 生活習慣改善セミナー
対象者に合わせたテーマや、健診前後などの関心が高まる時期の開催、職員研修など、ほかの施策と連動させることで、参加者を増やす効果が期待できます。
オンラインで受講可能なセミナーやeラーニングを活用することで、社員一人ひとりの業務スケジュールに合わせて受講してもらいやすくなります。
職場で運動する機会を確保する
社内でイベントを実施して運動する機会を設けることで、運動不足になりやすい社員の身体活動を促進できます。
▼運動の機会を確保するための取り組み例
- 肩こりや腰痛を防ぐストレッチを行う時間を設ける
- 運動不足解消のためのウォーキングイベントを実施する
- メンタルヘルスを兼ねたヨガ教室を開催する
社内で運動に関するイベントを行う際には、関心の低い層に興味を持ってもらうための工夫も必要です。
▼関心の低い社員の参加を促す工夫
どこでも(職場や自宅)、参加できる環境を整える
就業時間内での実施環境を整える
苦手意識に配慮する(オンライン環境等で顔を出さずに参加できる仕組みづくり)
一人だけでなく、支えてくれる家族や友人と一緒に参加できる仕組みを用意する
多様な趣味嗜好に寄り添える豊富なテーマを取り入れる
社員のニーズに合わせて活用できる多彩なプログラムやテーマを設けることで、健康づくりに取り組む意欲の向上を図り、生活習慣の改善が促進されると考えられます。
まとめ
この記事では、社員の健康管理について以下の内容を解説しました。
- 社員の健康管理が重要とされる理由
- 健康管理を実践するための2つの視点
- 健康管理の具体的な取り組み
社員の健康は、仕事のパフォーマンスや働きがいを形成する基盤となり、企業の成長と価値の向上を図るうえで欠かせません。
法令を遵守する視点だけでなく、人材を資本と捉えて経営戦略の一環として心身の健康のための投資を行うことが重要です。
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