介護予防マニュアルの改訂ポイントと7つの分野

介護予防マニュアルの改訂ポイントと7つの分野


2022年4月に厚生労働省より、『介護予防マニュアル』の改訂版として、第4版が公表されました。介護予防マニュアルは、認知機能低下の予防や運動機能の向上など、介護予防に関する具体的なプログラムを示すマニュアルです。これは、2012年3月の改訂以来、10年ぶりとなる改訂です。

また、介護予防マニュアルは、介護予防分野を担当する自治体職員や事業所の専門職の方が参考にすることを想定して作成されています。

しかし、介護予防に携わる自治体の担当者のなかには、「どのような点が変更されたのか把握できていない」「改訂されたプログラム内容を理解したい」という方もいるのではないでしょうか。

この記事では、介護予防マニュアルの改訂ポイントと、7つの分野における改訂点やプログラム内容について解説します。


目次[非表示]

  1. 1.介護予防マニュアルの改訂ポイント
  2. 2.介護予防マニュアルを構成する7つの分野
    1. 2.1.①複合プログラム実施マニュアル
    2. 2.2.②運動器の機能向上マニュアル
    3. 2.3.③栄養改善マニュアル
    4. 2.4.④口腔機能向上マニュアル
    5. 2.5.⑤閉じこもり予防・支援マニュアル
    6. 2.6.⑥認知機能低下予防・支援マニュアル
    7. 2.7.⑦うつ予防・支援マニュアル
  3. 3.まとめ


介護予防マニュアルの改訂ポイント

改訂された介護予防マニュアルでは、以下の3つの観点で内容が見直されています。


  1. 現行の介護予防制度に沿った記載への変更
  2. 介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン』『地域づくりによる介護予防を推進するための手引き』など、ほかの手引き・ガイドラインとの棲み分けの明確化
  3. 介護予防領域における、最新の研究に基づくエビデンスを踏まえた内容への更新


介護予防マニュアルは、各自治体の担当者や事業所の専門職などに向けたマニュアルでもあるため、“サービスC”と呼ばれる短期集中介護予防サービスでの活用を想定した内容・記載に変更されています。

また、対象者は、生活機能が低下した高齢者かつ、運動器・栄養・口腔・閉じこもり・認知機能・うつなどの分野で、サービス提供が必要だとされる高齢者です。

出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】』『介護予防マニュアル【第4版】概要版



介護予防マニュアルを構成する7つの分野

介護予防マニュアルは、7つの分野で構成されており、それぞれの分野で具体的なプログラム内容が記載されています。

ここでは、各分野の改訂点や実施目的、プログラム内容などを解説します。


①複合プログラム実施マニュアル

改訂版では、以前の運動器の機能向上プログラムに、栄養改善と口腔機能向上を加えた複合プログラムが追加されました。

複合プログラムの目的は、身体機能の変化が、寝たきりや介護状態などにつながる重要な要素であることに気づき、生活習慣の予防・改善に向けた方法を知って実践してもらうことです。

また、参加者との交流や役割分担を通じて、人との絆やコミュニティの大切さを再認識してもらうきっかけをつくります。


▼複合プログラムの実施例

運動器の機能向上プログラムの実施例

画像引用元:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】


出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】


②運動器の機能向上マニュアル

運動器()の機能向上プログラムの目的は、高齢者の運動機能を向上させ、要介護や要支援の発生を抑えることで、健康寿命の延伸を図ることです。

短期集中予防サービスの重要な役割を担うプログラムです。

改訂版では、『介護予防ガイド 実践・エビデンス編』に基づき、プログラムを実施する際は栄養面にも配慮することが望ましいと追記されました。また、体力測定の評価表の見直しが行われ、新しい年齢別体力基準値表が掲載されています。

なお、体力を構成する要素を包括的に運動ができるよう、ストレッチやバランス運動、筋肉増強運動などを組み合わせたプログラムが実施されます。


▼運動器の機能向上プログラムの実施例

複合プログラムの実施例

画像引用元:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】


※運動器とは、身体運動に関わる筋肉、骨、関節、靭帯、腱、神経などの総称。

出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】』『介護予防マニュアル【第4版】概要版


③栄養改善マニュアル

栄養改善プログラムでは、日常生活における食事を支援し、低栄養状態の予防や改善をすることで質の高い自立した生活を目指します。

食事の内容だけではなく、食事の準備やおいしく食べることなど、高齢者の食事を総合的に支えることが目的です。

改訂版では、『介護予防ガイド 実践・エビデンス編』に基づき、適切な栄養改善サービスにより、体重の増加や身体機能の改善、QOL(Quality of Life:生活の質)の向上が期待できると示されました。また、『日本人の食事摂取基準(2020年版)』に基づき、65歳以上の高齢者の目標とするBMIの範囲が追記されています。


▼栄養改善プログラムの実施例

栄養改善プログラムの実施例

画像引用元:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】概要版


出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】』『介護予防マニュアル【第4版】概要版


④口腔機能向上マニュアル

口腔機能向上プログラムは、口腔機能向上の必要性についての教育や口腔清浄の自立支援、摂食・嚥下(えんげ)機能などの向上支援が目的です。

軽微な口腔機能の低下でも、要介護認定や死亡リスクを高めるとされており、将来的にフレイル状態に陥る可能性があります。

改訂版では、『介護予防ガイド 実践・エビデンス編』に基づき、口腔機能の低下が、摂取する食品の偏りや摂取量の減少につながると示されました。また、軽微な口腔機能の低下が、要介護認定や死亡リスク、サルコペニアなどのリスクを高めると追記されています。


▼口腔機能向上プログラムの実施例

口腔機能向上プログラムの実施例

画像引用元:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】


出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】』『介護予防マニュアル【第4版】概要版


⑤閉じこもり予防・支援マニュアル

閉じこもり予防・支援プログラムでは、社会参加の場の多様化を目指し、高齢者が自分に合った場に参加できる環境を整備することが目的です。

閉じこもり傾向が強く、社会参加が望めない高齢者に対しては、継続して見守りや安否確認などの支援を行います。

外出意欲は薄いが後押しで社会復帰が期待できる高齢者に対しては、自身が魅力的に感じる場を選べる環境をつくり、参加につなげていきます。

改訂版では、従来までの訪問を中心としたアプローチを改め、社会資源の発掘や創出による社会参加の場の多様化を目指しながら、高齢者が自分に合った場に参加できる環境の整備に重きを置くと記載されています。


▼閉じこもり予防・支援プログラムの実施例

  • 多様な社会参加の場の創出
  • 社会資源の発掘・創出
  • 見守り・安否確認


出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】概要版


⑥認知機能低下予防・支援マニュアル

認知機能低下予防・支援プログラムは、認知症の発症を遅らせて、軽度認知障がいの高齢者に対する認知機能低下の予防が目的です。

改訂版では、運動・栄養・認知機能訓練などの多因子介入は、認知機能低下の予防だけではなく、多くの疾病予防に効果的であると示されました。また、『認知症施策推進大綱』に基づき、認知症施策における予防の考え方と、認知症施策における共生と予防の両論の必要性が追記されています。

なお、認知機能低下対策として、運動や音楽、食事、レクリエーションなど、さまざまなプログラムが実施されています。


▼認知機能低下予防・支援プログラムの実施例

認知機能低下予防・支援プログラムの実施例

画像引用元:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】概要版


出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】』『介護予防マニュアル【第4版】概要版


⑦うつ予防・支援マニュアル

うつ予防・支援プログラムでは、高齢者のうつを予防し、うつ状態・うつ傾向にある高齢者を長く支えるための地域の環境づくりを目的にしています。

地域全体への普及や啓発を行い、うつに関する正しい知識を学ぶことでストレスに対して適切に対処できるようにします。

改訂版では、『介護予防ガイド 実践・エビデンス編』に基づき、運動すること自体が重要である点と、具体的なプログラムが追記されました。また、運動が困難な高齢者に対しては、楽しく取組める活動を勧めることと追記されています。


▼うつ予防・支援プログラムの実施例

  • ストレッチング
  • 筋力トレーニング
  • 有酸素運動
  • 心身運動(太極拳・ヨガなど)


出典:厚生労働省『介護予防マニュアル【第4版】』『介護予防マニュアル【第4版】概要版



まとめ

この記事では、介護予防マニュアルの改訂について以下の内容で解説しました。


  • 介護予防マニュアルの改訂ポイント
  • 介護予防マニュアルを構成する7つの分野


介護予防マニュアルは、2022年4月に一部見直しが行われ、最新の知見が取り入れられました。

また、改訂後のマニュアルは、高齢者の社会参加を促し、継続していける環境の構築を目的としたプログラム内容になっており、柔軟な支援が行えます。

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