健康経営の「やらされ感」をどう減らす?ルネサンスが進めるデータ活用と組織別施策 | 株式会社ルネサンスの健康経営事例

健康経営の施策を全社に展開しているものの、従業員の行動変容やエンゲージメント向上につながっているのか、手応えを得られずにいる企業は少なくありません。
健康セミナーや運動イベント、健診後の受診勧奨などを実施しても、参加する人が固定化したり、現場から「業務の状況に合わない」という声が上がったりすることがあります。
株式会社ルネサンスでも、データに基づく全社施策を積み重ね、健康経営の基盤を整えてきました。しかし、データを組織別・属性別に分析したことで、全社平均だけでは見えない「組織ごとの固有の課題」が明らかになりました。
そこで現在は、全社共通の施策に組織別のアプローチを掛け合わせる「両輪型」の健康経営へと移行しています。
本記事では、ルネサンスが目指す健康経営の姿、具体的な施策と成果、全社一律の取り組みで直面した壁、組織実装に向けた現在の挑戦を紹介します。
※本記事は、健康長寿産業連合会が主催する『健康経営ビジネスサロン「健康経営先進事例セミナー2026」』において、株式会社ルネサンスの担当者が登壇した内容をもとに、当社が編集・構成したものです。
目次[非表示]
- 1.ルネサンスが健康経営で目指すのは、従業員と顧客の相互価値共創
- 2.健康経営のKGIを「エンゲージメント&Well-being」に設定
- 3.経営層と現場をつなぐ部署横断プロジェクト「ルネミラ」
- 4.健診を「検査の日」ではなく、日々の行動の答え合わせにする
- 5.「学ぶ・実践する・測る」で健康行動の習慣化を支援
- 6.中性脂肪の高リスク層に「食生活改善プロジェクト」を実施
- 7.健診後の再受診は「義務」と「支援」の両輪で進める
- 8.女性の健康施策では、制度だけでなく「現場で働けるか」を検証
- 9.3つのデータ基盤から「全社一律では届かない壁」が見えた
- 10.「健康のプロフェッショナル」という目標も、組織によって捉え方が違った
- 11.全社共通のKGIはそろえ、KPIと施策は組織ごとに設計する
- 12.いきなり数値目標を決めず、データと現場の声を対話でつなぐ
- 13.ルネミラの役割は「全社への発信」から「現場への伴走」へ
- 14.ルネサンスの事例から学べる健康経営推進のポイント
- 14.1.1.施策より先に「目指す姿」を定義する
- 14.2.2.参加率だけでなく、行動変容まで確認する
- 14.3.3.全社平均だけで判断しない
- 14.4.4.全社共通の基盤と、組織別施策を分けて考える
- 14.5.5.データを答えではなく、対話のきっかけとして使う
- 15.まとめ:健康経営は、完成した施策を展開する活動ではない
ルネサンスが健康経営で目指すのは、従業員と顧客の相互価値共創
ルネサンスは、スポーツクラブ事業をはじめ、自治体・企業における健康づくり事業、介護リハビリ事業などを展開しています。2026年3月末時点では、グループ全体で国内外330施設を運営しています。
同社が掲げる企業理念は「生きがい創造企業」です。この理念のもと、健康経営では次の考え方を重視しています。
「EIS(従業員感動満足)」なくして「CIS(顧客感動満足)」なし。
お客様に健康で快適なライフスタイルを提案するには、サービスを提供する従業員自身が生きがいやWell-beingを実感していることが欠かせない、という考え方です。
従業員の健康を単なる疾病予防として捉えるのではなく、従業員の生きがい、顧客への価値提供、事業の持続的成長をつなぐ経営基盤として位置づけています。

健康経営のKGIを「エンゲージメント&Well-being」に設定
ルネサンスでは、健康経営の目的や施策、成果指標の関係を「健康経営戦略マップ」として可視化しています。
最終的なKGIは、次の2つです。
- エンゲージメント
- Well-being
さらに、従業員が「会社から支援されている」と感じる度合いを示すPOS、すなわち「認知された組織支援」も指標として導入しています。
健康施策を実施した回数や参加率だけを見るのではなく、その施策が個人の意識や行動にどう影響し、組織への信頼やエンゲージメントにどうつながったのかを追う設計です。

経営層と現場をつなぐ部署横断プロジェクト「ルネミラ」
健康経営を現場へ落とし込むうえで、ルネサンスが重視しているのが推進体制です。
代表取締役社長執行役員がCHOとして健康経営推進委員会の委員長を務め、各事業本部長とともに全社方針やKGIを検討します。
一方、現場への実装を担うのが、部署横断プロジェクト「ルネミラ」です。
ルネミラは「ルネサンスの未来をつくるプロジェクト」の略称で、各組織から選ばれた推進メンバーと事務局で構成されています。主な役割は、経営層が定めた全社方針を、そのまま現場へ伝えることではありません。
各事業本部と連携しながら、全社戦略を「自分たちの組織にとって、どのような意味があるのか」という現場の言葉に翻訳し、従業員の自分ごと化を支援しています。
健診を「検査の日」ではなく、日々の行動の答え合わせにする
ルネサンスでは、従来の健診を起点とした単発イベントから、年間を通じた健康増進プログラムへと取り組みを進化させています。以前は、健康診断の時期に合わせてイベントを行い、その後の受診勧奨や事後措置に重点を置いていました。
しかし、イベント期間が終わると健康意識を保ちにくくなる「継続の壁」がありました。そこで2026年からは、全従業員を対象として、次のサイクルを年間で回す仕組みに変更しています。
- 健診前に、アプリやツールを使って健康行動を実践する
- 健診を、日々の行動による変化を確認する「答え合わせの場」とする
- 健診結果を確認し、必要な再受診につなげる
- 組織単位で成果を共有・表彰し、翌年の行動につなげる
健康診断を受動的に受ける検査ではなく、自分で健康をデザインするプロセスの一部として再設計したことがポイントです。
「学ぶ・実践する・測る」で健康行動の習慣化を支援
全社向けの施策は、「学ぶ」「実践する」「測る」の3段階で設計されています。
学ぶ
従業員専用の健康経営支援サービス「スマートAction」を活用し、健診結果の見方や管理職向けのヘルスマネジメント、熱中症対策、女性の健康などの動画を配信しています。
講演では、動画の継続視聴率が約70%に達し、自発的に健康を学ぶ姿勢が定着しつつあることが紹介されました。
健康経営度調査票に対応した約200本/月のライブ&ビデオがいつでも見られる健康経営支援サービス「スマートAction」の詳細はこちら。
実践する
食事・運動を支援するアプリや自社サービスを活用し、従業員が日常生活の中で健康行動に取り組める環境を整えています。
施策をイベント当日だけで終わらせず、時間や場所を限定しないことが、習慣化を促すポイントです。
測る
顧客向けに提供している身体機能の測定サービスを従業員にも実施し、自分の身体の状態を客観的に把握できるようにしています。
測定結果は健康づくりだけでなく、転倒や無理な動作による労働災害を防ぐ安全衛生施策にも活用されています。
中性脂肪の高リスク層に「食生活改善プロジェクト」を実施
健康データを分析した結果、ルネサンスでは脂質、特に中性脂肪に課題があることが分かりました。
2025年度の資料では、脂質有所見率は24.8%。なかでも「要経過観察」に該当する層の割合が大きく、生活習慣への早期介入が必要な状態でした。
そこで、中性脂肪が高い従業員を対象に、冷凍宅配食を使った食生活改善プロジェクトを実施しました。
単に健康的な食事へ置き換えるのではなく、1日1食を置き換えながら、自律的に食事計画を振り返る設計としています。
その結果、参加者の85.7%で中性脂肪の数値が改善しました。さらに、参加者には次のような行動の広がりも見られました。
- 食生活やカロリーを意識するようになった
- 運動やウォーキングを始めた
- 味覚や嗜好が健康的に変化した
一つの食事施策をきっかけに、別の健康行動へと波及したことが大きな成果です。
会社がすべての行動を指示するのではなく、従業員自身が変化に気づき、自ら次の行動を選ぶ状態を目指しています。
健診後の再受診は「義務」と「支援」の両輪で進める
健康診断で再検査や精密検査が必要と判定されても、受診せずに放置されると、疾病の早期発見や重症化予防につながりません。
ルネサンスでは、健診後の再受診について、単なる「お願い」ではなく、就業規則に基づく従業員の義務として明文化しています。一方的に義務を課すだけではなく、次の支援も組み合わせています。
- システムによる受診勧奨
- 組織や上司を通じた働きかけ
- 受診費用の補助
- 受診しやすい仕組みの整備
2025年度は再受診対象者が772人まで増加しましたが、再受診率は91.3%と高い水準を維持しています。ただし、同社が目指しているのはあくまで100%です。
健康リスク管理をWell-beingの土台と捉え、再受診の徹底については妥協せず取り組む姿勢を示しています。
女性の健康施策では、制度だけでなく「現場で働けるか」を検証
ルネサンスでは、健康診断や休暇制度、相談窓口、健康情報の提供、経済的支援など、女性の健康を支える制度を整備してきました。
しかし、従業員アンケートからは、制度があるだけでは解決できない現場の課題が見えてきました。
具体的には、次のような声です。
- シフト代行する人員を確保しにくい
- 生理休暇を取得しづらい
- プールに入る業務に不安がある
- 月経のタイミングで業務を調整しにくい
そこで、全従業員を対象とした学習機会に加え、希望者へサニタリーショーツや吸水水着を試験的に配布しました。利用後には、「安心して業務に集中できた」という声が寄せられています。
制度をつくって終わるのではなく、従業員の業務場面まで想像し、実際に困っていることへ物理的な支援を届ける取り組みです。同時に、女性だけの問題として扱わず、周囲の理解を促すことで、チームでカバーし合える風土づくりを進めています。
3つのデータ基盤から「全社一律では届かない壁」が見えた
ルネサンスの健康経営を支えているのが、次の3つのデータ基盤です。
データ基盤 | 把握する内容 |
エンゲージメントサーベイ | エンゲージメント、組織と個人の関係性 |
独自の健康アンケート | 健康意識、行動、POS、プレゼンティーズムなど |
健康管理データ | 健診・ストレスチェック結果、再受診状況、個別フォロー情報 |
これらを活用したことで、全社平均の向上や再受診率の改善など、一定の成果を確認できました。
しかし、データを組織別・属性別に分析すると、全社平均では見えないばらつきが表れました。
たとえば、スポーツクラブの現場で顧客に運動指導を行う従業員と、本社の管理部門で働く従業員とでは、健康への意識も、運動できる環境も異なります。
現場では、シフトや接客業務のため、会社が用意したイベントに参加できない場合があります。一方、本社部門では、施策の内容を自分の仕事や健康課題と結びつけにくい場合があります。
同じ施策を同じメッセージで伝えても、受け止め方や実行可能性が異なるのです。
「健康のプロフェッショナル」という目標も、組織によって捉え方が違った
ルネサンスでは、従来「健康のプロフェッショナルとしての自信」を健康経営のKGIの一つとしていました。
しかし、全社アンケートを分析したところ、従業員が考える「健康のプロフェッショナル」には、主に次の4つの捉え方がありました。
- 規則正しい生活を送る自己管理力
- 周囲の人に寄り添い、支援する姿勢
- 笑顔や元気、メンタルの安定
- 健康に関する専門知識や指導力
どれも間違いではありません。ただし、組織や年代によって重視する要素が異なっていました。
抽象的な目標だけを掲げても、従業員が「明日から何をすればよいのか」を判断できず、具体的な行動につながらないという課題が生じていたのです。
全社共通のKGIはそろえ、KPIと施策は組織ごとに設計する
こうした課題を受け、ルネサンスは健康経営の目標とアプローチを再設計しました。
全社共通で追うKGIは「エンゲージメント」と「Well-being」です。
一方、そのKGIに到達するためのKPIや具体的な施策は、各組織の特性に合わせて設計します。
たとえば、次のような違いが想定されます。
- 部署A:業務特性に合わせた健康行動の習慣化
- 部署B:組織の強みを活かした対話型施策
- 部署C:多様な働き方に対応する個別支援
目指すゴールは共通でも、ゴールまでの道筋は一つではありません。全社施策をなくすのではなく、全社共通の健康管理基盤を維持しながら、組織固有のKPIと施策を重ねる両輪型へ移行しています。
成果を出す戦略マップと測定方法の解説として、KGI・KPIの具体例なガイドをご紹介しています。あわせてご確認ください。
いきなり数値目標を決めず、データと現場の声を対話でつなぐ
組織別アプローチで重要なのは、データを見せて「この数値を改善してください」と求めることではありません。
ルネサンスでは、定量データに加えて、現場の温度感や業務特性、従業員が感じている課題を対話によって確認しています。
たとえば、データ上では運動習慣が不足しているように見えても、現場には次のような事情があるかもしれません。
- シフト勤務で決まった時間を確保できない
- 接客や移動が多く、疲労が蓄積している
- 施策の実施時間と業務の繁忙時間が重なっている
- 上司や同僚の理解を得にくい
データと現場の認識にずれがあるまま目標を設定すると、施策は「やらされ仕事」になりかねません。
そのため、まずは現場と人事、ルネミラが対話し、「本当に解決すべき課題は何か」を一緒に探るところから始めています。
ルネミラの役割は「全社への発信」から「現場への伴走」へ
組織別アプローチへの移行に伴い、ルネミラの役割も変化しています。
従来は、全社イベントの企画や健康情報の発信など、全社を盛り上げる活動が中心でした。
現在はこれに加えて、各組織の推進担当者の横に立ち、データの読み解きや課題設定、施策づくりを一緒に進める伴走機能を強化しています。
本部から完成した施策を下ろすのではなく、各組織が自律的に健康経営を実践できるよう、裏方として支える役割です。
ルネサンスの事例から学べる健康経営推進のポイント
健康経営を組織へ浸透させるためのポイントとして、以下の5つが挙げられるのではないでしょうか。
1.施策より先に「目指す姿」を定義する
他社の成功事例をそのまま導入するのではなく、自社が健康経営によって何を実現したいのかを明確にする必要があります。
ルネサンスでは、「生きがい創造企業」という理念と「人生100年時代のWell-being共創カンパニー」という長期ビジョンから、健康経営の目的を設計しています。
2.参加率だけでなく、行動変容まで確認する
セミナーの開催回数や参加人数だけでは、健康経営の成果は判断できません。
健診結果、再受診率、アンケート、エンゲージメントなどを組み合わせ、従業員の意識や行動がどう変化したかを確認することが重要です。
3.全社平均だけで判断しない
全社の数値が改善していても、特定の部署や属性に課題が残っている場合があります。
データを組織別・職種別・年代別に見ることで、施策が届いていない層や、業務上実行できない理由が見つかります。
4.全社共通の基盤と、組織別施策を分けて考える
健診や再受診、健康情報の提供など、全社共通で整えるべき基盤は維持します。
そのうえで、行動変容を促す施策やKPIは、各組織の働き方や課題に合わせて設計することが有効です。
5.データを答えではなく、対話のきっかけとして使う
数値だけでは、現場の業務状況や感情までは分かりません。
データを提示して結論を押し付けるのではなく、「なぜこの結果になっているのか」を現場と一緒に考えることが、自分ごと化につながります。
まとめ:健康経営は、完成した施策を展開する活動ではない
ルネサンスの健康経営は、すでに完成した成功モデルではありません。
全社施策によって一定の成果を出しながらも、組織ごとの違いや、従業員の行動につながりにくいという課題を認め、現在も試行錯誤を続けています。
重要なのは、他社の施策を数多く取り入れることではなく、自社が目指す姿から逆算し、必要な施策を見極めることです。
共通のゴールを掲げながら、そこへ至る道筋は組織ごとに変える。データと現場の声をつなぎ、対話を通じて施策をつくる。
こうした取り組みの積み重ねが、従業員の健康だけでなく、エンゲージメントやWell-being、さらには事業成長につながる健康経営を形づくっていきます。


