民間参画で変わる公共施設運営 ― 自治体担当者のための業務委託・運営権方式

少子高齢化や人口減少が進むなか、学校・体育館・図書館・文化施設など、自治体が管理する「公共施設」の持続的な運営は転換点を迎えています。
老朽化の進行、財政の制約、住民ニーズの多様化が複雑に絡み合い、多くの自治体にとって「限られた予算で公共施設の運営とサービスの質をどう維持するか」が、公共施設運営における喫緊の課題となっています。
その打開策として多くの自治体で検討が進んでいるのが、民間企業がもつノウハウや技術、資金力を活用する「民間参画」です。
本記事では、公共施設の運営を担当する自治体担当者の方に向けて、主要な官民連携制度の特徴と導入メリットをご紹介します。また、制度の仕組みから契約設計のポイント、運営会社の選定視点までを解説します。
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目次[非表示]
- 1.公共施設運営における民間参画の3つの手法と2つの制度的枠組み
- 1.1.①業務委託
- 1.2.②指定管理者制度
- 1.3.③PFI / PPP方式
- 1.3.1.PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)
- 1.3.2.PPP(Public Private Partnership:官民連携)
- 1.4.④包括的民間委託(包括管理)
- 1.5.⑤包括連携協定・民間提案型官民連携モデリング事業
- 2.運営形態ごとの特徴
- 2.1.運営費・維持管理費構造を把握
- 2.2.収益モデル・利用料金徴収と民間参画の可能性
- 2.3.契約期間・権限・リスク分担
- 3.運営会社を選定する際のポイント
- 4.ルネサンスの公共施設の運営に関する導入事例
- 4.1.大阪府堺市:体育館建て替え整備運営PFI事業
- 4.2.香川県三豊市:指定管理者事業
- 4.3.福岡県粕屋町:業務委託
- 5.まとめ
公共施設運営における民間参画の3つの手法と2つの制度的枠組み
公共施設の管理運営を民間に任せる仕組みは、目的やリスク分担の深さによって多様です。
代表的なものとして、「業務委託」「指定管理者制度」「PFI / PPP方式」があります。これに加えて、「包括的民間委託」と「包括連携協定・民間提案型事業」という二種類の連携枠組みも導入が進んでいます。
①業務委託
公共施設運営の民間参画において、比較的取り組みやすい手法のひとつが「業務委託」です。自治体が仕様書を作成し、清掃、設備保守、受付など特定の業務を外部事業者に委託します。
専門的なノウハウを部分的に導入できるため、短時間で成果を得やすいという利点があります。一方で、委託範囲が限定されるため、施設全体の効率化や利用者サービスの向上にはつながりにくい傾向があります。
また、仕様書にない業務や突発的な事象への対応は自治体が対応する必要があり、監督負担が残る点にも留意が必要です。部分的な効率化効率化には適していますが、包括的な運営には不向きです。
②指定管理者制度
「指定管理者制度」は、地方自治法に基づき、公共施設を民間企業やNPO法人などに管理運営させる仕組みです。自治体が条例にしたがって指定管理者を選定し、使用許可や料金設定といった一定の裁量権を付与します。
これにより、民間による柔軟な経営や自主的な運営を行いやすくなり、利用者サービス向上や運営コスト削減の両立を図りやすくなります。
▼指定管理者制度のイメージ

画像引用元:総務省『指定管理者制度について』
契約期間は概ね3〜5年程度が一般的で、公募・評価・更新を繰り返すことで透明性を確保します。特に地域との関わりが深い図書館・体育館・文化施設などで積極的に導入されています。
画像引用元:総務省『指定管理者制度について』
③PFI / PPP方式
PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)
PFI方式は、公共施設の建設、維持管理、運営を一体的に民間が担う仕組みで、LCC(ライフサイクルコスト)の最適化を目的としています。
PFIのなかでも「コンセッション(公共施設等運営事業)方式」は、施設の所有権を自治体に残したまま、民間が運営権を取得して料金収入を得る方法です。民間は利用者ニーズや市場リスクに責任を負い、収益性を高めるための経営努力が促進されます。
PPP(Public Private Partnership:官民連携)
PPPとは、PFIを含む官民連携の枠組みを指します。行政と民間がそれぞれの強みを活かしながら協働し、公共サービスをより効率的かつ持続的に提供することを目的とした仕組みです。
PPPの導入により、行政は財政負担を軽減しつつ、民間の創意工夫を取り入れた質の高い公共サービスの提供が可能になります。
▼PFI / PPP方式のイメージ

画像引用元:内閣府『PFI事業の概要』
PFI / PPP方式は、単なる運営委託とは異なります。自治体と民間事業者が、長期的かつ包括的にリスクを分担しながら事業を進める仕組みです。空港や上下水道、道路など、さまざまな公共インフラ分野での活用が広がっています。
画像引用元:内閣府『PFI事業の概要』
④包括的民間委託(包括管理)
包括的民間委託(包括管理)は、複数施設や複数業務を、まとめて民間に委ねる方法です。個別委託よりも業務の一体化が進み、連携ロスの削減と効率的な管理体制の構築が可能になります。
例えば、複数のスポーツ施設を一括管理することで、ノウハウを横断的に活用でき、職員の負担軽減やコスト削減、施設利用者へのサービス品質の安定化が期待されます。
施設の長寿命化や維持管理の効率化を進めたい自治体に適した方式です。
⑤包括連携協定・民間提案型官民連携モデリング事業
包括連携協定は、特定の施設だけでなく、地域課題の解決全般を目的に民間と自治体が協働する枠組みです。
地域活性化、防災、子育て支援、環境保全など多様な分野で企業の知見を活かし、継続的な協力関係を築きます。
一方で、民間提案型官民連携モデリング事業は、自治体が提示するニーズに対して民間が提案を行い、実証的に新しい運営モデルを構築する仕組みです。いずれも、指定管理やPFI導入に先立つ「共創の起点」として有効です。
運営形態ごとの特徴
公共施設運営の民間参画では、「費用負担・収益構造・リスク配分」をどう設計するかが成否を分けます。
手法によって契約期間やリスクの範囲が異なるため、まずはそれぞれの基本的な特徴を理解することが重要です。
契約形態 | 収益構造 | 主なリスク負担 | |
業務委託 | 短期契約 費用は主に自治体が負担 | 委託料(自治体支払い) | 自治体が費用・運営リスクを負う |
指定管理者制度 | 比較的短期〜中期契約(3〜5年程度) 管理料中心で一部費用を民間負担 | 管理料+利用料金(許可制) | 利用変動など一部を民間が負担 |
PFI/PPP | 10〜30年の長期契約 民間が主体的に費用を負担 | 利用料金収入(民間が直接徴収) | 利用率低下・老朽化対策などを民間が負担 |
運営手法を決定する際には、初期の運営費だけでなく、将来的な設備更新費用も考慮することが重要です。さらに、予期せぬリスクに対する備えを含め、ライフサイクル全体でのコストパフォーマンスを評価する必要があります。
運営費・維持管理費構造を把握
運営形態によって、自治体と民間の費用負担や収益構造は異なります。リスクと費用の移転度合いは、業務委託<指定管理者制度<PFIの順に高くなります。
業務委託は短期的効率化、指定管理はサービス改善、PFIは長期的投資・経営改善に活用されることが多いです。
収益モデル・利用料金徴収と民間参画の可能性
図書館などの非収益型施設では、管理料が主な収入で、コストと品質の両立が課題となります。
一方で、体育館や有料駐車場などの収益型施設や、コンセッション方式が適用される施設では、利用料金が収入源となり、民間の経営力や、市場対応力が成果を左右します。料金設定とサービス水準のバランスを契約であらかじめ明確に定めることが重要です。
契約期間・権限・リスク分担
業務委託は、単年度契約が基本であり、権限は限定的となります。指定管理者制度の契約期間は通常3〜5年程度と中短期で、一定の裁量が指定管理者に付与されます。PFI/コンセッション方式の契約期間は10〜30年と長期で、広範な権限と責任を伴います。
自治体側は、事前にリスクの所在と対処方法を契約書で明確に定める「リスク分担表」を作成し、修繕内容を明確化することが不可欠です。
運営会社を選定する際のポイント
公共施設の民間運営の成否は、制度設計や契約内容だけでなく、運営を担う企業や人材の力量によって左右されます。
運営会社を選定する際は、同様施設での運営実績、地域との連携力、具体的な維持管理提案、現実的な収支計画、リスク対応策などを総合的に確認することが重要です。また、価格だけでなく、地域貢献や事業の継続性への姿勢も評価のポイントとなります。
さらに、施設の品質を支えるのは、日々の運営を担う現場の人材体制です。有資格者や専門知識・技能を有する人材の配置に加え、接遇、安全管理、緊急時対応など、多様な利用者や施設の状況に対応できる育成体制を整えることが、長期的な品質維持と自治体イメージの向上につながります。
ルネサンスの公共施設の運営に関する導入事例
ルネサンスは全国で87施設(2025年4月時点)管理・運営を行っています。各施設においては、アリーナ、プール、トレーニング室などの運営、各種スポーツ教室やイベントの開催などさまざまな取り組みを行い、子どもから高齢者まで地域のみなさまの健康づくりを幅広くサポートしています。
大阪府堺市:体育館建て替え整備運営PFI事業
堺市では、老朽化した体育館の建て替えと「スポーツタウン・堺」の実現を目的に、市民が安全・快適に利用できる体育館と、武道振興の拠点となる武道館を併設整備しました。
ルネサンスは、本PFI事業の事業主体である「つながリーナ大浜PFI株式会社」の構成企業として参画し、計7施設の運営を担当。スポーツの力を活かして、市民の健康づくりや“生きる力”の向上に寄与し、誰もが生涯にわたって住み続けたいと思えるまちづくりに貢献しています。
香川県三豊市:指定管理者事業
三豊市が市民の健康増進・介護予防のために設置した「たくまシーマックス」は、2013年よりルネサンスが指定管理者として運営しています。現在は1日800~900人が利用する地域に不可欠な施設へと成長しました。
さらに、公共機関や民間団体と連携し、市内の公共施設を活用した認知機能低下予防プログラムや介護予防プログラム、水泳教室なども展開しています。活動の場を市内全域へ広げ、市民の福祉向上に貢献し続けています。
福岡県粕屋町:業務委託
粕屋町の大型スポーツ施設「かすやドーム」は、地域の象徴的な存在として親しまれてきました。
ルネサンスは本施設の運営を受託し、地域の健康増進とスポーツ参加の裾野拡大に取り組んでいます。若い世代が多く活気ある粕屋町において、子どもから大人まで幅広い世代がスポーツを楽しめる環境づくりを推進しています。健康教室やイベントの充実などを通じて、施設の利便性向上と利用促進を図っています。
まとめ
この記事では、公共施設運営の民間参画について以下の内容を解説しました。
- 公共施設運営における民間参画の3つの手法と2つの制度的枠組み
- 運営形態ごとの特徴
- 運営会社を選定する際のポイント
- ルネサンスの公共施設の運営に関する導入事例
公共施設の運営における民間参画は、施設を「維持するハコ」から「地域価値を生む拠点」へと変える取り組みといえます。
ぞれぞれの手法や制度を押さえてコストとリスクのバランスを明確にし、民間の創意と現場の力を生かすことで、持続可能な公共サービスの実現が期待できます。
『ルネサンス』は、スポーツクラブ運営で培った健康づくりの専門性と、全国で培った指定管理・PFI事業の実績を活かし、公共施設の価値向上を総合的に支援しています。施設の管理運営だけでなく、地域課題に応じた健康増進事業や介護予防プログラムの企画・実施までワンストップで提供し、住民の「健康」「交流」「学び」を支える持続可能な施設運営を実現します。
公共施設の活性化や地域の健康づくりに課題をお持ちであれば、ぜひルネサンスの運営ノウハウをご活用ください。


