福岡市は、九州最大の政令指定都市として約160万人の人口を抱え、スタートアップ支援や天神ビッグバンなど、先進的な街づくりに積極的に取り組んでいます。
近年、福岡市役所では45歳以上の職員における公務災害が急増しており、なかでも転倒による事故が大半を占めることから、その対策が喫緊の課題でした。
この課題に対応するため、福岡市の公民連携ワンストップ窓口「mirai@(ミライアット)」を通じてルネサンスより安全衛生プログラムの提案を受けた福岡市は、バランスボールを活用した転倒災害予防の実証実験をルネサンスと共働で実施しました。
今回は、福岡市がルネサンスと連携して行った取り組みの詳細や得られた効果についてお話を伺いました。
導入の背景 |
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導入の決め手 |
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導入後の効果 |
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福岡市役所職員健康課は、職員の安全衛生管理業務や公務災害に関する補償事務を担当しています。
「私たちの主な業務は、大きく2つに分かれます。ひとつは、健康診断の実施や法律に基づいた安全体制の構築といった『職員の安全衛生管理業務』です。
もうひとつは、民間企業における労働災害にあたる『公務災害の補償事務』で、職員が通勤中や業務中に怪我をした際の補償認定や給付を行っています」(松田氏)
こうしたなか福岡市では近年、45歳以上の職員における公務災害の増加、特に転倒による事故が大きな課題となっていました。
「実証実験前に平成25年度から令和5年度までの公務災害の件数を調べたところ、全体で約1,040件のうち、265件が転倒によるものでした。これは全体の約4分の1にあたり、最も多い事故原因です。さらにそのうち148件が骨折を伴っていました。年齢別に見ると、40代以降から転倒事故が顕著に増加していました」(松田氏)
骨折による長期療養は、本人への影響だけでなく、業務にも大きな支障をもたらします。こうした状況のなか、ルネサンスから提案があったといいます。
「福岡市は、公民連携ワンストップ窓口『mirai@(ミライアット)』を通して、行政課題や社会課題の解決に繋がる民間提案を受け付けています。
そこにルネサンスさんから、転倒リスク測定とバランスボールを組み合わせた『安全衛生プログラム』の提案がありました。
ちょうど転倒事故の予防対策を検討していたタイミングだったため、問題意識が一致し、すぐに取り組みを始めることになりました」(松田氏)
転倒リスク測定とバランスボールを組み合わせた実証実験は、さまざまな点で魅力的だったといいます。
「座っている時間が長い事務職の職員にとって、椅子のかわりに用いることができるバランスボールは非常に適していました。仕事をしながら取り組めるという点で、日常業務との親和性が高いと感じたのです。また、固定リング付きのバランスボールは転がる心配がなく、つまずきによる事故リスクが低減できる点も安心材料でした」(松田氏)
しかし、実証実験をスタートするにあたっては、不安もあったといいます。
「本当に効果が出るのか、市民からの印象はどうか、という不安はありました。
特に『バランスボールに座っている姿が遊んでいるように見えてしまうのではないか』という懸念は大きかったです。
そこで『転倒災害予防のための実証実験実施中』と書かれたチラシを作成し、執務室に貼ってもらうことで、周囲の理解を得ながら進めていきました」(佐藤氏)
💡からだチェック&エクササイズ ~バランスボール編~は、普段の椅子をバランスボールに置き換えることで、自然に体幹を鍛え、姿勢を整えるプログラムです。
開始前には、バランスボールを安全かつ効果的に使うための「正しい座り方」や「簡単にできるストレッチ・筋トレ」を実践。さらに、導入前後で効果測定を行い、ご自身の変化を実感していただけます。
実証実験は2期に分けて実施され、それぞれ40歳以上で運動習慣のない職員約100名を対象に行われました。
第1期は2024年5月~8月、第2期は同年11月~2025年1月にかけて実施されました。
「1期目の参加者募集には152名もの応募がありました。運動習慣のない方を優先しつつ、性別や年齢の偏りが出ないように100名を選定しました。
『普段は運動の時間が取れないけれど、これなら私にもできそう』という声が多く、特に育児や介護と仕事を両立している40代以上の職員から大きな反響がありました」(松田氏)
参加者のモチベーション維持のため、さまざまな工夫を行いました。
「庁内のチャットグループを作成し、参加者同士が質問や工夫を共有できるようにしました。また、ルネサンスさんから定期的に応援メッセージや動画を送っていただき、バランスボールの正しい座り方や簡単なエクササイズを教えていただきました。離れていても『みんなで一緒に頑張っている』という雰囲気が生まれたのは、とても良かったです」(佐藤氏)
3か月間の実施で、目に見える効果が現れました。
「片足立ち上がりテストでは16.4ポイントの改善、30秒間の座位ステッピングテストでは平均4回の増加、2ステップテストでは15.1cmの伸長が見られました。また、つまずく割合も60.9%から32.6%に減少しており、この数値の改善には私たちも驚きました」(松田氏)
数値以外にも、さまざまな効果があったといいます。
「『腰や肩の痛みが軽減した』、『姿勢が良くなった』という声が多く寄せられました。
また、『バランスボールがきっかけで職場内のコミュニケーションが増えた』という副次的な効果もありました。
バランスボールに座っていると、これまで話す機会がなかった職員から『それ、何?』と声をかけられる場面も多かったようです」(松田氏)
参加者の満足度は非常に高く、97%が「満足」または「大変満足」と回答。
実証実験終了後には、自費でバランスボールを購入する職員もいたそうです。
「参加者には実証実験期間中バランスボールを貸与したのですが、実証実験終了後、通常の椅子に戻ると再び腰痛を感じたという声があり、継続を希望して自費でバランスボールを購入した職員もいました。また、実験に参加していなかった職員のなかにも、今回の取り組みを見てバランスボールを購入し、使用を始めたケースもあります」(松田氏)
この実証実験の取り組みは、厚生労働省のSAFEアワード企業等間連携部門においてゴールド賞を受賞するという形で高く評価されました。
「ゴールド賞の受賞は非常に名誉なことで、職員全員で喜びを分かち合いました。
実証実験の結果をホームページで公表したところ、民間企業や他の自治体から問い合わせも多数寄せられ、今回の取り組みに対して確かな手応えを感じています」(松田氏)
実証実験の成果を受け、福岡市では今後もこのような取り組みを続ける方針です。
「令和7年度もこの取り組みを続けたいと思っています。実証実験として始まったものを、今後は通常の施策として定着させていきたいと考えています」(松田氏)
「福岡市の職員が健康であることは、市民の皆様へのより良いサービス提供にもつながります。私たちが健康になることで、市民が快適に過ごせるよう、これからも取り組んでいきたいと思います」(佐藤氏)
最後に、同様の取り組みを検討している自治体や企業に向けてアドバイスをいただきました。
「プログラムを『やってください』と伝えるだけでは、うまくいかないと感じました。参加者や事務局が一体となり、楽しみながら取り組むことが、最も効果的だと思います。継続的なサポートやコミュニケーションが成功の鍵です」(松田氏)
💡からだチェック&エクササイズ ~バランスボール編~は、普段の椅子をバランスボールに置き換えることで、自然に体幹を鍛え、姿勢を整えるプログラムです。
開始前には、バランスボールを安全かつ効果的に使うための「正しい座り方」や「簡単にできるストレッチ・筋トレ」を実践。さらに、導入前後で効果測定を行い、ご自身の変化を実感していただけます。